其の弐 ページ24
「痛たた…」
「何している！？」
「どうして僕を殴らないんですか！！」
「これが一番抑止力があるからだよ。八左ヱ門が傷付けば私も傷付くって分かればさすがにもう手出ししないよね」
それに、喜八郎のこと殴りたくないしね。
「ば、馬鹿だ！！あなたは大馬鹿者だ！！！未来なんか帰らなくたって誰もがあなたを幸せにするのに！！僕が！！悲しい涙なんて流させやしないのにッ！！！何でよりによってこの人なんだ！！！」
普段飄々としている姿からは想像もつかない程取り乱した様子で、拳をぶるぶると震わせて、涙を一滴、床に溢して出て行ってしまった。
「喜八郎！！」
「A、こんなことになってすまない。喜八郎を連れて来る判断を下した私の責任だ。竹谷、後は頼むぞ」
仙蔵は慌てて追っていった。
「今、手拭い濡らして来るから待ってろ！」
「いや大丈夫だよ、加減してるから。こんなの平気」
「……もう、俺の為にそんな事するのはやめてくれ…！！」
眉を下げ、とても苦しそうに言った。
さっきはあんなに淡々と別れるとか言っていたのに。
「気持ちは嬉しかったけど、そうされても仕方ない事をしてると思ってるから。Aは俺だけのものじゃないのに、皆からAを奪おうとしてる。Aを引き留めようと行動するのも、俺を止めようとするのもごく自然な事だ。
自分を傷付けるようなことはしないでくれ。お前が苦しむと辛いんだ」
「自分の頬を殴るくらい、死ぬことに比べたら大したことないよ」
「……そうだよな」
「ふふ、冗談だよ！こっちの時代に来る時と兵庫水軍滞在中、既に二回も死んでるから平気だよ」
八左ヱ門はそれから何も言わずに私を抱き締めるので、私もしばらく腕の中に収まっていた。
その夜、久しぶりに未来の夢を見た。
薬剤師になるという夢を叶えるため、大学へ進学していた。
白衣を着て三角フラスコに入った赤紫色の液体を撹拌していた。未来へ帰れば、その夢を追えるんだ。
八左ヱ門に帰るべきと言われた時は室町を離れるなんてとんでもないと思ったけれど、半日で少し前向きに捉えられていることに人間の適応能力の高さを感じる。
少し早いが日が出ていたので顔を洗いに行こうと水場への最短距離を歩いていると、突然地面を踏み外した感覚に陥った。
「おわっ！？」
「だぁいせいこーう」
声のする方を見ると、穴の縁に足を組んで腰掛ける喜八郎がこちらを見下ろしていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 37人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
玉虫厨子(プロフ) - 麗羅さん» わー！一気読みありがとうございます！ 私もどんなエンドを迎えるのか言いたくてうずうずしてしまいます笑 (2月14日 20時) (
レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
麗羅(プロフ) - すごく面白くて、一気に読んでしまいました！どうなってしまうんでしょうか…。ハッピーエンドじゃなかったら悲しすぎる！笑 (2月14日 10時) (レス) id: 06bc0a6cee (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - Maさん» いつもありがとうございます💓楽しんで頂けて何よりです！ (2月13日 22時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - ねこさん» コメントありがとうございます🙇夢中とのことで嬉しいです！どのような結末にするかは決めているので、メッセージで質問頂けたらお答えできます！ (2月13日 22時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
Ma - 鬱展開なのか...それとも...んでも！！めちゃおもろいです！ (2月13日 22時) (レス) id: 8c9f415f7b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：玉虫厨子 | 作成日時：2024年2月2日 21時
