其の参（八左ヱ門視点） ページ3
何かが目の端を横切った。恐る恐る部屋を覗いていたAが短く悲鳴を上げた。
「それ！！何とかしてっ！！」
「えっ、これ！？」
「絶対そう！！耳元で羽音してたから…！！」
Aの部屋の侵入者を見て俺は拍子抜けした。それは可愛らしいカナブンだったからだ。いやまさか虫だったとは…。
「大丈夫だよ！Aが嫌いなのは足が八本以上ある虫だろう？これはカナブンと言って六本しかないし、その糞が土壌を改善してくれる益虫なんだぜ！」
Aは顔を横にぶんぶんと振った。いくら人畜無害でも急に羽音が聞こえたらびっくりするか。
「しかし十月にカナブンに会えるとはなあ！お前の仲間は夏の間に生を終えちまったよ」
するとそれまで拒絶していたAが少し興味を持った。
「今は時期じゃないの？」
「ああ。六月下旬頃から八月頃に見られるんだ！こいつは周りより少し遅く生まれてしまったんだなぁ」
「そうなんだ…」
「こいつは俺が責任を持って保護するよ」
いつも懐に入れている箸でそっとカナブンを摘んだ。大人しくしているのを見る限り、弱ってきているのだろう。
当然だ。カナブンは樹液を主食にしているが、秋が深まるにつれて木は樹液を出さなくなる。
「しかし参ったな、さすがにもう樹液が出ている木は無いだろうな……」
どの道カナブンの成虫の寿命は長くて二ヶ月。晩夏に生まれたとしてこの個体は長くはない。カナブンである以上、保護したとしても越冬も出来ない。だが関わったら最後まで。このカナブンにも何かしてやりたい。少なくとも、看取るくらいは…。
自分に何が出来るか思案していると、Aは小さな麻の袋をこちらへ差し出した。俺は夕方にもそれを見た。
「それ、金平糖？」
「これを砕いて水と煮詰めて焼酎を混ぜたら、人工樹液が出来る……かも」
「ほ、本当かッ！？」
「分からない。私が未来で作った時は黒砂糖を煮詰めたから成分や仕上がりが若干違うかもしれないけど…」
「……だが、せっかくAが買って来たものだろう。それにこのカナブンはもう長くない」
「八左ヱ門はカナブンを助けたいんでしょう？今できる事があるなら惜しまずやろう」
Aは確かにカナブンに嫌悪感を抱いていた筈なのに、土産の金平糖を差し出してまで短命なこいつを救おうとしている。何故だ？俺が保護すると言ったから？樹液が無いと困っていたから？
Aの真っ直ぐな視線にじわ、と心が熱くなるのを感じた。
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玉虫厨子(プロフ) - 麗羅さん» わー！一気読みありがとうございます！ 私もどんなエンドを迎えるのか言いたくてうずうずしてしまいます笑 (2月14日 20時) (
レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
麗羅(プロフ) - すごく面白くて、一気に読んでしまいました！どうなってしまうんでしょうか…。ハッピーエンドじゃなかったら悲しすぎる！笑 (2月14日 10時) (レス) id: 06bc0a6cee (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - Maさん» いつもありがとうございます💓楽しんで頂けて何よりです！ (2月13日 22時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - ねこさん» コメントありがとうございます🙇夢中とのことで嬉しいです！どのような結末にするかは決めているので、メッセージで質問頂けたらお答えできます！ (2月13日 22時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
Ma - 鬱展開なのか...それとも...んでも！！めちゃおもろいです！ (2月13日 22時) (レス) id: 8c9f415f7b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：玉虫厨子 | 作成日時：2024年2月2日 21時
