其の参 ページ20
「八左ヱ門にはさよなら突きつけられているのに？」
「………ごめん」
「冗談だよ。そんなに謝らないでよ、私が惨めな人みたい」
手拭いで乱暴に目元を拭った。明日腫れませんように。
「はあ、お腹空いたなー！今日の夕餉は何だろうね？あ、お腹空いたと言えば、コガネムシは樹液食べに来たかな？」
なるべくいつもの調子で言った。もうこれ以上メソメソしたくない。
「カナブンな」
「ああ、そう、カナブン！」
「きっと食べてると思うよ。上手いこと出来たもんな。
いいの教えて貰ったよ。来年の夏はわざわざクヌギやコナラの木を探さなくても生物小屋付近の木にあれを塗っておけば昆虫採集出来るんだもんな」
相変わらず、虫の話になると饒舌だなぁ。
「ねえ、あのカナブン、未来からやって来たよね？」
「え？」
「樹液が主な餌なら、樹液が出ない今成虫になるのは不可思議でしょ。きっと今よりもう少し先の夏からやって来たんだよ。忍術学園って、今と未来を繋ぐ不思議な場所なのかも」
「そうかもしれないな。だったらあいつはこの時代で弱っていって、またカナブンに生まれ変わって少しずつ未来へと近づいていくんだな」
「未来、かぁ」
私がこの時代に来た時、制服姿で喜八郎の穴に頭を下にして気絶していた。登下校中だったのかな。
ふと引き出しの奥から制服を取り出して広げてみた。未来へ帰るのにこの格好だと浮くし……いや、伊賀に戻れるなら忍装束でも場所によっては全く違和感ないのだけど。忍者市って自称するくらいだし。
もう袖を通すこともないと思っていたから放置していたけれど、幸いにも虫に食われたりはしていなかった。
「それは？」
「そっか、まだ見た事なかったよね。私の居た学園で着る制服だよ。ちょっとそっち向いてて」
久しぶりに着てみよう。未来へ戻ることに少しは前向きになれるかもしれない。
「えっ、ちょっと！脱ぐなら部屋出るって！」
「大丈夫、八左ヱ門は覗いたりしないでしょ？」
「しないけど！！」
いつも木綿の自然な風合いの装束を着ていたから、化繊ブラウスの滑らかな着心地は久しぶりで、とても懐かしく感じた。
「もういいよ」
日本人が初めて南蛮人を見たらこんな反応をするんじゃないかというくらい、興味深そうにまじまじと凝視する。
「……その袴、短すぎない？」
プリーツスカートを指差して眉根を寄せた。
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玉虫厨子(プロフ) - 麗羅さん» わー！一気読みありがとうございます！ 私もどんなエンドを迎えるのか言いたくてうずうずしてしまいます笑 (2月14日 20時) (
レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
麗羅(プロフ) - すごく面白くて、一気に読んでしまいました！どうなってしまうんでしょうか…。ハッピーエンドじゃなかったら悲しすぎる！笑 (2月14日 10時) (レス) id: 06bc0a6cee (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - Maさん» いつもありがとうございます💓楽しんで頂けて何よりです！ (2月13日 22時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - ねこさん» コメントありがとうございます🙇夢中とのことで嬉しいです！どのような結末にするかは決めているので、メッセージで質問頂けたらお答えできます！ (2月13日 22時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
Ma - 鬱展開なのか...それとも...んでも！！めちゃおもろいです！ (2月13日 22時) (レス) id: 8c9f415f7b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：玉虫厨子 | 作成日時：2024年2月2日 21時
