其の陸 ページ13
“帰るべき”
私の今最も聞きたくない言葉を、最も言って欲しくない人の口から聞いた。それは極めて残酷な、例えるなら冤罪で死刑宣告でも受けたかのような、そんな衝撃が胸を貫いた。
「っはぁ!?お前ふざけてるのか!?笑えない冗談はよせよ!!」
三郎が私を間に挟んだまま八左ヱ門の胸倉を掴んだ。止めなければいけないのに、私は今、それどころではない。心臓が早鐘を打ち、呼吸が早くなっているのを周りに隠すので精一杯だ。
「俺は至って真面目に話している」
八左ヱ門が三郎の手首を掴むと、三郎は乱暴に胸を押した。
「じゃあ俺達でAを殺すって言うのか!?」
「Aが望めばそうするつもりだ」
どうしてそんな淡々と言えるのだろう。
私、竈門に火を点けられるよ。掃除、洗濯もこなせるよ。つい昨日だって、町に一人で行けたし、一緒に訓練してくれるって言うから、もう室町の人間になったつもりでいたよ。八左ヱ門も、同じ思いだと思っていたよ。
「竹谷先輩!黙って聞いていれば…あなた酷いです!真っ先に全力で引き留めると思ったのに!!関わったら最後までの精神はどこへ行ったんですか!?」
孫兵君が立ち上がり、後ろの方から喚いた。
「理由なんて上手く説明できない。ただ、未来人であるAは未来で生きていくのが一番自然なことだ。生物委員ならこの意味分かるだろ」
「竹谷先輩はAさんの事、大切じゃないんですか!?勉強頑張っていい所に就職して自分が養っていこうって気概はあなたには無いんですか!?」
「大切だよ。この世でたった一人の愛した人だよ。俺が養う?そうだな、昨日まではそんな未来も漠然と思い描いていた」
「分かりません!!だったらどうしてそうしないんですか!?」
「俺達がAを大切に思うように、未来にもAを大切に思う人達がいる。俺達は思いがけず出会いを与えられた側だけど、未来の人達はAを失ったままだ。
俺が自分の我儘を叶える為に、本来隣にいるべきだった人達を悲しませるのは、全く俺の本意じゃない」
恐る恐る彼の方を見ると、揺るがない、迷いのない真っ直ぐな目をして孫兵君に語りかけていて、見ていられなくなった。それでも我儘を言って欲しかったって思うのは、私が浅はかなんだろうか。
「帰る方法があるなら、帰してやりたい」
口調も優しくて、言っている内容も極めて利他的であるにも関わらず、その一言一句が私の深いところを抉っていく。
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玉虫厨子(プロフ) - 麗羅さん» わー!一気読みありがとうございます! 私もどんなエンドを迎えるのか言いたくてうずうずしてしまいます笑 (2月14日 20時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
麗羅(プロフ) - すごく面白くて、一気に読んでしまいました!どうなってしまうんでしょうか…。ハッピーエンドじゃなかったら悲しすぎる!笑 (2月14日 10時) (レス) id: 06bc0a6cee (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - Maさん» いつもありがとうございます💓楽しんで頂けて何よりです! (2月13日 22時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - ねこさん» コメントありがとうございます🙇夢中とのことで嬉しいです!どのような結末にするかは決めているので、メッセージで質問頂けたらお答えできます! (2月13日 22時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
Ma - 鬱展開なのか...それとも...んでも!!めちゃおもろいです! (2月13日 22時) (レス) id: 8c9f415f7b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2024年2月2日 21時