其の弐(利吉視点) ページ3
「Aの周辺で忍たま達の動きが活発になっている。猶予は幾許もないぞ」
そう父が言った。
父はまさに園田村を出ようとした時、Aさんと出会したと言う。そしてタソガレドキ本陣へ行かないかと誘った。
だけど“薬を作らなければならない”という理由で断られたらしい。薬といえば善法寺伊作。彼は人あたりがいいし、或いはAさんと──。
今まで抑えていたのだが、何だかもう父と会話してからどうしようもなく彼女に会いたくなった。だから学園長先生にお願いして園田村へ制札を運ぶ役目をお任せ頂いた。
敵方の鉄砲隊が進軍していて正面からは入れそうになかったので森から村へと入ると、ちょうどAさんを見つけた。声を掛けようとすると、「山田先生と一緒に行けばよかったかな」などと独り言を呟いていて、来てくれていたらこれ以上ない陣中見舞いになったのに、なんて思いながら軽く息を整えて改めて彼女に声を掛けた。
(何だろうな、この充足感)
Aさんに会いたい一心で身体に鞭打って園田村までやって来たが、一言二言交わしただけで私の心は解されていった。仕事詰めだった私の心身はAさんを渇望していて、彼女と話す機会を再び持った。
「いけません。私も積もるお話はありますが、きちんとお休み頂かなければなりません。またお話しする機会がきっとありますよ」
こんなに落胆したのもいつ振りだろうか。Aさんのその発言は完全に私を思いやった故のものだと分かっている。分かってはいるが、私が今求めているのは他でもない、彼女との対話なのだ。
ここで私は一計を案じた。
同情を誘い心の隙につけ込む──哀車の術だ。
「Aさんに嫌われたくはありませんから、諦めますね。引き留めてすみません……」
寂しげにそう言って少し強引に戸を閉める。直前の彼女の表情は何か言いたげだったが、敢えて何も聞かずに。
そして現在。
Aさんが戸口の前をうろうろしている。気配的に戸の前に立って手を掛けて、やっぱり離してを何度か繰り返しているようだ。
(かっっっ、可愛い………!!)
健気!!飼い主に閉め出された犬みたいな行動……。
私を憐れんで声を掛けるか迷っているなんて、本当に尊い……。この事実だけでもう一徹いける……。
Aさんがまた戸口の前に立った。私はそっと戸に手を掛けると、一気に戸を開け放った。
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玉虫厨子(プロフ) - コトハさん» こちらこそ最後までお読み頂きありがとうございます!鉢屋とのやり取りを気に入って頂けて嬉しいです☺️鉢屋はどうしても書きたいシーンが一つあるので、いつかルートで書けたらなぁと思っています。応援ありがとうございます!! (12月30日 7時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - ちーさん» とうとう終わりました!連載中は何度もコメントくださりありがとうございました😊そしてこれからも末長く宜しくお願い致します🙇 (12月30日 7時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
コトハ(プロフ) - キャラ皆んな魅力的ですが三郎と主人公ちゃんのやりとりが特に好きだったのでいつの日か三郎のお話も読めると嬉しいです、玉虫様のご無理のないペースでこれからも楽しみに応援しています。長々とすみません (12月30日 6時) (レス) id: 97fc43e259 (このIDを非表示/違反報告)
コトハ(プロフ) - 共通章完結おめでとうございます! 素敵なお話をいつもありがとうございます! 作品を読みながらこのキャラとのルートはあるかなっとドキドキしながら想像するのも楽しかったのでこれからキャラ達とどんなルートのお話が読めるのか楽しみです! (12月30日 6時) (レス) id: 97fc43e259 (このIDを非表示/違反報告)
ちー - とうとう共通話が終わったんですね!各キャラの分岐の話も楽しみにしています。最後まで愛読させていただきます! (12月29日 22時) (レス) id: 88a0bb30f3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年12月10日 16時