曲者再来の段 ページ6
一体どういう事だろうか。
寝入ってしばらく後、ふいに身体に圧を感じて目を覚ました。すると手足が動かない事に気がついた。
「お目覚めかな?また会いに来ちゃった」
小声で誰かが喋る。掛け布団の上から私の太腿の上に何者かが座っていて、両手はその者の膝で押さえつけられている。
掛け布団は私が退けたのかこの人が剥いだのか、敷布団の横に丸まっていた。
「…むぐッ」
隣室の仙蔵と文次郎君に気付いてもらおうと声をあげようとしたら、大きな掌が私の口を塞ぎ、もう片方の手が私の喉を覆いつくす。
「大きな声を出したら首締めちゃうよ」
命の危機を感じ、黙って頷く。
「ん、いい子」
口を塞いでいた手を外し、私の頭を撫でた。
この匂い、思い出した。この時代に来て二日目に私を連れ去ろうとした曲者だ。やはり小松田さんの気配察知能力を掻い潜る手練れなのだ。
「…また、連れ去りに?」
「最終目標はね…今日は視察ってところかな。
君は柔らかいし、温かいねえ。おじさん眠くなってきちゃったよ」
これはもしかしてチャンスかもしれない。
「眠いなら布団、お貸ししますよ」
「………、それもいいかもしれないね。それじゃちょっと失礼して…」
私の上から退いた。よし、これで解放され──
「ああ〜極楽だねぇ〜…」
どうしてこうなった。
曲者が横たわると、布団の外に出た私の腰に長い腕が伸びて引き寄せられた。
私の首の下に曲者の左腕が差し込まれ、背後から曲者の右腕と右脚が回されて抱き枕のようにされてしまった。
状況が悪化した!
布団を貸すとは言ったが添い寝するとは言っていないのだが!?
規則正しい寝息が聞こえてきて、本当に寝たようだ。
諦めるな私!
もしこの曲者の眠りが深ければ、私が抜け出しても気付かないかもしれない。完璧な人間などいないのだから、気配は上手に消せても一度寝入ったらしばらく起きない忍がいたって不思議ではない。
寝息の変化に集中しながら少しずつ身を捩って、曲者との接地面積を減らしていく。しかしあと一歩のところで引き戻されてしまう。
それでもめげずに何度も挑戦していると、初めて曲者が身じろぎした。
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年8月13日 9時