其の弍 ページ45
「まるで、消える予定があるかのようだな」
「えっ!?そんな事ないよ?」
「A、行くな。ここを去るつもりならば理由を教えろ」
「やだなー、そんな予定なんてないってば」
「今までだてにお前の顔を見て来た訳じゃないぞ」
そうだ。小平太は獣のように勘が鋭いって誰かが言っていた。どんな些細な嘘も嗅ぎ分けられてしまいそうで何も話せない。真剣な視線はまるで獲物を追い詰める虎のよう。視線を外すことができない。
何もできなくなった私に小平太が追い討ちをかける。
「私にだけは、打ち明けてくれないか?どんな話も受け止める。お前の決定は尊重するから…」
(本当は話したい。だけど今この瞬間もタソガレドキ忍者が近くにいたとしたら…)
思わず天井を見上げると、小平太が音もなく苦無を手に取り、天井裏へと飛び上がった。
「大丈夫だ、何者の気配もない!」
「…事情を知ってしまった忍たまは消すと言ってた」
「構わん、話せ」
消すと聞いて尚も即答で私の話を聞くと言う。それは単に自信家という訳ではなく、本当に何でも受け容れたいという気持ちの表れのようだ。
意を決して懐にしまっていた小瓶を手渡すと、眉を顰めてそれを眺める。
「これは?」
「昨日の夜、曲者に渡されたの」
「昨晩は仙蔵と文次郎が見張っていた筈だろう!?」
「仙蔵達の部屋に着く前に。これを夏休み明けまでに忍たま六年生か教員の飲食物に盛れと。盛れなければタソガレドキとオーマガトキの戦が落ち着いた九月頃に私を攫いに来るって」
「何だと…?この中身は?」
「教えてくれなかった。
だから私は夏休みが終わったら皆に何も言わず、ここから去らないといけないの」
「夏休みは皆実家に帰るから、実質もう一月もないくらいか」
「そうだね。それまでは皆との時間を楽しみたい。だけど、私がいなくなった後、小平太がまたぼろぼろになってあちこち探し回るんじゃないかと…それが心残りだったの」
「事情は分かった。Aはそれでいいのか?」
「そうするしかないよね」
「全ての弊害を抜きにして、お前の本心を教えてくれ」
私の本心?そんなの我儘以外の何物でもない。それでも、今の小平太になら言ってもいいような気がした。
「…忍術学園に居たいよ。もちろん小瓶の中身だって誰にも飲ませたくない。もうしばらく皆と一緒に居たい」
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年8月13日 9時