流石の京男の段（タカ丸視点） ページ35
早朝、戸を隔てて遠慮がちに僕の名を呼ぶ声で目が覚めた。
その声の主は最近よく話すようになった忍たま長屋の紅一点だ。
「Aちゃん？」
「タカ丸君…、あの…」
「どうぞ入って」
言いにくそうに佇む彼女を招き入れる。何だかいつもと違って、表情に憂いが見える。
「大変申し訳ないんだけど、何も聞かずにしばらくここに居させてもらっていいかな…？まだ早いし寝てもらってて全然大丈夫なので。部屋の隅っこに座らせてもらえたらそれでいいので」
(何も聞かずに、かあ…。)
昨晩の護衛当番は立花君、潮江君の筈だけど、二人と何かあったのだろうか。
「勿論、好きなだけ居てくれて構わないよ」
「ありがとう…！」
Aちゃんは隅で三角座りをして、膝に顔を伏せた。
とても話しかけられる雰囲気ではないし、まだ早かったからもう一度寝ようかと布団には入ってみるけど、やっぱりAちゃんの事が気になって眠れない。
「Aちゃん、起きてたらちょっと立って貰ってもいい？」
「あ、うん！」
座布団代わりに隅に沿わせるように敷布団を敷いて、また隅に座らせる。
僕もその横にピッタリくっついて三角座りをして、僕と彼女の膝の上に掛け布団を掛ける。
「えっ…どうして」
「だって、何も聞かないでって言ってたし訳を聞いちゃ悪いから、せめて安心してもらいたくって」
Aちゃんの顔は見ずに言う。誰しも泣きそうな顔なんて見られて嬉しいものではないと思うし。
「…うぅっ、」
堪えきれない大粒の涙が布団に落ちて染みを作る。
「よしよし…」
肩を抱き寄せてあげれば、僕の寝巻きをぎゅっと握ってしゃくり上げて泣き始めた。
どうやら相当な事があったみたい。
暫くすると泣き疲れて眠ってしまったようで、僕の肩に頭を乗せてすうすうと寝てしまった。起こさないよう布団に横たえて、僕もようやく二度寝にありついた。
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作者名：玉虫厨子 | 作成日時：2023年8月13日 9時
