其の参 ページ34
「Aさん…？」
小松田さんが心配そうに私の顔を覗き込む。
「え、あ、はい？」
「どうしたんですか？何だか顔色が悪いし、冷や汗もかいてますね？」
「あはは…ちょっと寝不足で体調が優れなくて」
誤魔化し方がまずかった。小松田さんはしゅんとして私に頭を下げて謝る。
「昨晩の件、本当にすみません。僕が一番に気が付かなきゃいけないのに、曲者をみすみす侵入させてしまって。僕がへっぽこなせいでAさんを危険な目に遭わせてしまって、本当に悔しいです」
「いえいえいえ！！私はこの通り無事ですし、小松田さんのせいでもありませんので！」
つい先程も侵入者があったなどとは到底言えなかった。
下手に言えば小松田さんを落ち込ませるばかりではなく、小松田さん自身が危険に晒されてしまう。
今日だって何かしらの薬を盛られてしまったのだから、彼に毒を飲ませることもタソガレドキ忍者隊にとってはきっと造作もないことなのだ。
…ではわざわざ私に毒を盛らせようとするのは何故だろうか？
いや、きっと遂行させる気はないんだ。私を諦めさせる為の口実にしようとしているだけだ。
◆
ようやく本来の目的地である仙蔵と文次郎の部屋に到着する。
頭蓋の中で「六年い組は君の命を狙っている」という言葉が反芻する。きっと偽言だろうが、二人を前に卒倒してしまいそうな気分だ。
二人の前では平静を装った。
三禁文次郎君が鼻血を出したことで気が紛れるも、仙蔵が私の背後で髪を解き始めた時なんかは気が気でなかった。
六年い組に怯えると言うことは、仙蔵と文次郎君よりも雑渡とかいう男の言葉を信じているということだ。先だって仙蔵に【自分の事を信頼していなかったなんて酷い】と発言しているにも関わらずだ。自分がほとほと嫌になる。
「…お前が、余りにも私を避けるからだな…」
そう溢す仙蔵の瞳は切な気に揺れていて、私の気持ちをかき乱した。全てを話してしまいそうで、部屋を出る。
かと言って自室で一人ではいたくない。訳を話さずとも一緒にいてくれそうな人はいないだろうか…？
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作者名：玉虫厨子 | 作成日時：2023年8月13日 9時
