其の伍(兵助視点) ページ25
「今は叱責よりもご自分の風船の心配なさったらいかがですかぁ?」
寸鉄を握り締め、用具倉庫の軒の上から下の様子を窺う。七松先輩は綾部がAの近くに穴を掘った事に激怒していて、言わば怒車の術に掛かった状態だ。比較的狙いやすい。
綾部の忠告は、俺の動きを察知してのものだと思っていたが、七松先輩の背後に誰かが気配も隠さずに近付いていた。そして先輩の風船はいとも簡単に破られた。
「なっ…!四郎兵衛!?」
「エヘへ…七松先輩の風船は頂いたんだなぁ〜」
時友四郎兵衛は七松先輩に対して畏怖も何も感じず、自分の委員会の委員長から一本取った事をただ純粋に喜んでいる。
「参ったな…お前は殺気を孕んでいないから油断した。流石体育委員だ」
そんな四郎兵衛の風船を俺は着地と同時に割る。
「あっ!?僕の風船が…」
「すまない時友…」
何だろうか、この罪悪感は…。子供から玩具を奪ってしまったような気持ちだ。
しかし他所ごとを考えている暇は無い。何しろAの護衛役を買って出たい奴らばかりなのだから。
「行こうA、俺が護衛役だ」
「う、うん」
寸鉄を握っていない方の手でAの腕を掴み、その場を足早に離れる。
なるべく拓けた所を選択し、ひと所に留まらないよう動いていると、Aが不思議そうに訊ねる。
「ねえ、どこかに隠れなくていいの?」
「例えばさっきみたいに出入り口が一つしかない建物の中に隠れると、退路が絶たれて危険なんだ。それに既に誰かが潜んでいたら俺達はかなり不利になる」
その時、四方手裏剣が俺目掛けて飛んできた。それを素早く屈んで避けると、手近な所に落ちていた稚児の握り拳ほどの大きさの石を飛来元の茂みへ向けて投げる。
「うわッ!」
茂みから顔を出したのは、風船の無い田村三木ヱ門だった。
「うう…流石五年生…やはり簡単ではなかった…!」
「田村お前、風船が無いじゃないか?」
「石の飛来に身体をのけ反らせた時、茂みの枝が刺さって割れました…」
「それは不運だったな…」
「二点奪取するつもりが、逆に久々知先輩に二点与える結果になってしまった…」
「…いや、俺の得点じゃなく自滅だと思う」
「そうですか?分かりました。こうなったらAさんを何が何でも守り抜いて下さいね!そして火薬委員会が勝ち取った予算で硝石をしこたま仕入れて下さい!」
…そうか、俺は今田村の石火矢の練習費用の為に頑張っているようなものだな…。
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年8月13日 9時