其の参 ページ3
「あれ、取っちゃうの…勿体無いなぁ」
「新たな火種になるやも知れんからな」
「火種?」
訊いてもフッと笑うだけで教えてくれるつもりはないらしい。
仙蔵の部屋を後にして、長次さんと小平太の部屋に来た。
「長次さーん、小平太ー」
呼びかけると直ぐに小平太が開けてくれた。その後ろから長次さんが顔を出す。
「どうした!?」
「あいや、別に大したことではないんだけど、これ。少しだけど図書委員会と体育委員会の皆で食べてね」
「もそ…有平糖…美味そうだ、ありがとう」
「……ありがとう、アイツらもきっと喜ぶだろう」
「小平太も嫌いじゃなかったら食べてよ?」
「ああ…少しずつ大事に食べる!」
「ふふ…八左ヱ門も同じ事言ってた!毎日少しずつ齧るって」
小平太はそれを聞いてふっと優しく笑った。
「Aは竹谷の事が好きか?」
「うん…好きだよ?小平太も、長次さんも、他の皆も」
「…未だそこに私を加えてくれるか」
私の頭を触ろうとして、手を引っ込めた。
「どうしたの?」
「Aの意にそぐわん事は金輪際しないと誓ったのだ。だから許可なしに触れることはしない」
「ええ〜〜そんな極端な〜〜…」
「もそ…小平太は、随分反省したのだ…」
「そうなの?」
「ああ、好いた女子は忍たまと同じような扱いではダメだとようやく気付いた」
「そ、そんなあけすけに言われると…」
「…お前の顔が赤くなっていくのを見ていたら、触れたくなった。ほんの少し抱き締めてもいいか…?」
長次さんが空気を読んで部屋を出ていった。
「ま、待って長次さん行かないでー!」
「もそ…Aは人前でも気にしないか…」
「違うから!悪いけど断る!」
利吉さんにたらしって言われたからね、好意を持ってくれてる人には特に流されちゃダメよね!
「…でも、頭を触るくらいなら皆やってるし、いいよ」
「本当か!?」
一瞬、少年のような笑顔を見せたが気を取り直し、少し緊張した面持ちで私の頭をそっと撫でた。その手つきがまるで割れ物を扱うように慎重で、思わず笑ってしまった。
「ぷっ…細かい事は気にするな!」
背中をバシンと強めに叩いてやったら、驚いた顔でこちらを見た。
まるで小平太と私が入れ替わったみたい。
「おやすみ!」
二人の部屋を後にする私の背に向かって、慌てて「ありがとう、おやすみ!」と返事が返ってきた。
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年8月13日 9時