学園長の思いつきの段(彦四郎視点) ページ19
「学園長先生、ご所望のものが出来上がりました」
「うむ、ご苦労じゃった彦四郎、庄左ヱ門!」
僕達学級委員長委員会の一年生は、朝からとあるものの作成を学園長先生に命じられていた。
「これは一体何に使用するのですか?」
「それは今から皆の前で説明する。ヘムヘム、全員を校庭に集めてくれい!」
◆
「上級生諸君に言いたい事がある!何故たった一人の侵入者にこれほど好き勝手を許してしまうのか!?」
上級生達は返す言葉もなく、目線を伏せて悔しそうにしておられる。利吉さんは教師陣の並びに混ざっていて、彼もまた神妙な面持ちで地面を見ていた。
下級生はそのほとんどが昨晩の事情を朝のうちに聞いていた。厠に起きてその騒ぎの現場を直接見た者もいた。僕と庄左ヱ門は鉢屋先輩から聞かされて、それぞれい組とは組にその事実を伝えた。
「答えは明らか。圧倒的経験不足と鍛錬不足!潮江文次郎
よ!」
「はい!」
「出会して早々に手刀を入れられるとは何事じゃ!?相手が寸鉄など有していたらお前は死んでいたのじゃぞ!」
「申し訳ありません!」
「…という事で、ギンギンに鍛錬しておる潮江文次郎でこの有様じゃから、他の者も同様に言えるじゃろう。
そこで儂は考えた!これより鬼ごっこ大会を開催する!!」
貿易でこの国に入ってきたという、風船なる小さな袋状のものが一人一つ配られる。
「何だ、風船って…。風を受けて推進するのか?」
「それの袋の口を咥え、思い切り息を吹き込むのじゃ。人の頭程度の大きさになったら空気を逃さぬよう口を縛り、髪紐に噛ませて頭に固定するのじゃ」
Aさんだけは膨らませる前にその風船を縦横にビヨビヨと伸ばしている。そして手際よく膨らませると、素早く口を結んで紙紐に引っ掛けた。
「お、A早いな!」
「まあ、昔幾度となく遊んだから慣れてるしね」
「へえ、これは遊び道具なのか」
「出来ない子もいるみたい。ちょっと手伝ってくるよ」
そう言ってこちらへと歩いてくる。
「大丈夫?伝七君」
「え、あ、なかなか膨らまなくって…」
「物によって固いのもあるからね。ちょっと貸して…」
Aさんは伝七の風船を縦横に入念に伸ばして膨らませた。
「ふう、これハズレだったね、伸ばしても凄く固かったよ…!」
「あ、ありがとうございます!!」
風船を伝七の紙紐に付けたAさんは少しだけ息を弾ませて、他の下級生の所へと行ってしまった。
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年8月13日 9時