其の弍(利吉視点) ページ14
「そうではない」
「え?」
「Aと一晩共にしたのであろう。どうであった?」
「父上のおっしゃっている意味が分かりませんが?」
「皆まで言わせるな…」
父上は照れながらコホンと小さく咳払いをして、空を見上げる。気持ちのよい梅雨の晴れ間だ。
「つまるところ、夫婦として相性は良さそうか、と聞いている」
「はぁ???」
爽やかなあはに何を言ってんだこの人は?
「護衛の為に夜を共にしたのですよ?」
「分かっとる。ハァ、お前が早く娶れば牽制になってAも襲われにくくなるやもしれんのに」
「ちょっと本当にしつこいですよ?」
「Aを嫁にする気は毛頭無いのか?」
「毛頭無い、という訳でも無いですけど」
「そうかそうか、お前は天邪鬼だから私が娶れと言うから突っぱねとるんだな」
もういい面倒臭いこの人。
「…というか父上、何故私について来るのです?教員長屋はあっちでしょう?」
「一応Aの口から侵入者の話を聞いて学園長先生にご報告差し上げねばならんのだ」
「Aさんはまだ寝ていますよ」
「ぼちぼち起きていい時間だろう。身支度が終わるまで部屋の前で待っているから起こしてやりなさい」
「はいはい…」
戸を開けると、眼前に信じ難い光景が広がっていた(本日二回目)。私は矢の速さでそのまま戸を閉めた。
「Aさん!?なんて格好しているんですかッ!?!?」
(Aは起きていたのか?…どんな格好していたのだ…)
(起きていました。私の口からは到底申し上げられません)
矢羽音でやり取りしている間も先程の光景が頭を過る。
腰紐を取り払って寝巻きをただ羽織るだけの状態の彼女が…。
「す、すみませんでした〜。自室と勘違いして着替えを探し回っていました…」
きちんと寝巻きを着たAさんが赤面しながら戸を開けた。すると私の横に父の姿を見つけ、もっと顔を赤くした。
「や、山田先生っ!?大事な息子さんにお見苦しいもの見せてしまい申し訳ありません…!!」
「私ゃ構いませんよ。いずれ嫁になるなら多少順番があべこべでも」
「まだその冗談言ってるんですか!?」
「まだ冗談などと言って逃げるのか?」
「えっ」
「父上!そんな事を言いに来たのではないでしょう!?」
着替えのため取り急ぎ六年長屋の自室に戻らせ、父上を部屋へ押し込んだ。そして待っている間、Aさんの布団を畳んでおく。
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年8月13日 9時