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「これくらい唾かけときゃ治る…って言いたいところだけど、そんなの衛生的に良くないからね。消毒するからちょっと染みるよ」
Aは巾着袋の中から消毒液と包帯を取り出した。後から聞いた話だが、いつも出かける際は持ち歩いているらしい。
そのまま鼻水をすする少年に声を掛け、痛みから気を紛らわさせている。その姿は面倒見の良い姉のような、そんな感じだった。年相応に笑っていて可愛らしい。
「姉ちゃん、手当てありがとう」
「あんた擦り傷で良かったね。これが切り傷だったら骨見えてたよ。こんなの軽い軽い。よく泣かないでいられたね。ご褒美に飴あげる、ほら」
礼儀正しく頭を下げる少年の姿を見て、Aは笑った。そして、飴を包み紙から取り出して少年の口にほいっと入れる。桃色の飴玉だ。多分、苺味なんだろうな。
周りの人は微笑ましそうに二人を眺めていて、空気が自然と和む。ふわりと花が咲くような、そんな感じだ。
ふと、少年が不思議そうに首を傾げた。
「なぁ、姉ちゃん」
「なんだい、がきんちょ」
「なんで姉ちゃんの右手は肘までしか無いの?」
甘味を食べる俺の手までも止まった。時間が止まったようにぴくりとも動けなかった。
鈴の音が しゃん と鳴る。Aの瞳孔が開いた。少年の悪気の無い無垢な質問が、二人の間の空気を一瞬凍らせたのだ。
しかし、Aは目を細めて、左手で少年の頭を撫でた。
「この手はね、昔姉ちゃんが強い奴と戦った時に無くなったんだ」
「強い奴?」
「皆んなを苛める悪くて強い奴さ。其奴らから、あんたみたいながきんちょを守る為に戦ったんだよ」
話を盗み聞きするのは良くない行為だが、聞かずにはいられなかった。まさか、Aが鬼殺隊の隊士だったなんて夢にも思っていなかったから。
あんな華奢な身体で戦っていた…というのか
「姉ちゃんかっけぇ!」
「そう?ありがとう。さっさとお母さんのとこに帰んな。私は席に戻りたいんだ」
「わかった!じゃあな、姉ちゃん‼」
「ばいばいがきんちょ」
手を振って店から出て行く少年に手を振り返していた。視線に気付いたように、俺の方を向く。その顔は苦笑していた。
「聞いて…ましたよね」
「すまない…」
Aは 良いんですよ と一口煎茶を飲んで席に座り直す。数秒下を向いていたが、ふっと顔を上げた。その顔を笑顔だった。
「私、昔煉獄さんにお会いした事があるんです。覚えてます?」
そこから、Aの昔話が始まった。
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橘欅(プロフ) - ネコ2世さん» コメントありがとうございます!幸せな気持ちになっていただけるなんて…光栄です!どうかこの作品をご贔屓に! (2019年11月13日 16時) (レス) id: 4f6b87549d (このIDを非表示/違反報告)
ネコ2世 - 主人公が可愛らしくて好きです!煉獄さんとのやり取りが微笑ましくて読んでる側もすごく幸せな気持ちになります! (2019年11月12日 16時) (レス) id: 6d89e33ad2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:橘欅 | 作成日時:2019年11月10日 22時