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久し振りに街に出た。普段は部屋の中で診察書を纏めたり患者の治療をしたりとなかなか外に出る機会が無いからとても新鮮だ。
こんなに歩くのも久方振り。少し賑わった様子もなんだか懐かしいくらい。
「こんなに街は賑やかなんですね。私忘れちゃっていました」
「賑やかなのは良い事だ。平和である証拠だからな‼」
「そうですね。その通りです」
その平和も、誰かの犠牲を伴って生まれた物なのに、それを享受するだけの事を私達はして来たのだろうか。…駄目だ、考え方が皮肉すぎる。折角の楽しい非番なのに。もっと物事を純粋に考えてくれ、私。
「どうした?顔が浮かないぞ?」
「い、いえ‼何でもありません。少し考え事をしていただけです…お茶でもしましょっか‼」
煉獄さんの手を引いて近くの甘味処に入った。待って、私今更だが煉獄さんの手を触った?自分から?嗚呼、なんてはしたない‼数秒前の私、よくやった。
握った煉獄さんの手はあったかくて、熱くて、とても大きかった。冷え性の私の手もつられて暖かくなった気がした。
...................
「美味い‼美味い‼」
これだけ食べ物を美味しそうに食べる人を私は今迄見たことが無い。
餡蜜や善哉、桜餅にみたらし団子。それらを頬張る姿を、私は向かいの席で眺めながらお茶を啜るのだ。
「煉獄さんが食べてるとどれも美味しそうに見えますね」
「事実、全て美味いからな‼」
わっしょい、わっしょい と祭りの掛け声みたいなのを言って次々と口の中に吸い込まれる菓子たち。作った人がこれを見たらさぞかし嬉しいだろうな。
いつか私の手料理も…って、馬鹿馬鹿。変な想像はやめろ。
煎茶だけを注文したのがなんとなく申し訳ない気もしてきた。
「本当に茶だけで済むのか?」
「えぇ。お腹いっぱいなんです。それに煉獄さんが食べてるのを見るだけで充分食べた気になれます」
照れ臭そうに笑っていた。素敵。写真に収めたい。家宝にしたい。最高。尊い。どうかそのままの貴方でいて。
ドタンッ
煉獄さんの顔を合法的に眺めていたら突然、ちびっ子が大きな音を立てて転んだ。
まだ五才くらいの子供が店内で血を流してしまったようだ。今にも泣き出しそうなくらい涙を堪えていて、痛みに耐えているのがひしひしと伝わる。
私は煉獄さんに失礼して席を立った。
「大丈夫か?がきんちょ。手当てしてやるから脚見せな」
店内で泣かないとは、良い子だ。
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橘欅(プロフ) - ネコ2世さん» コメントありがとうございます!幸せな気持ちになっていただけるなんて…光栄です!どうかこの作品をご贔屓に! (2019年11月13日 16時) (レス) id: 4f6b87549d (このIDを非表示/違反報告)
ネコ2世 - 主人公が可愛らしくて好きです!煉獄さんとのやり取りが微笑ましくて読んでる側もすごく幸せな気持ちになります! (2019年11月12日 16時) (レス) id: 6d89e33ad2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:橘欅 | 作成日時:2019年11月10日 22時