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硝子張りの戸棚から薬瓶を数本、包帯を一本小脇に抱えて煉獄の前に座る。

落ちてくる横髪を彼女は耳にかけた。大きな目が一瞬揺らぎ、長い睫毛がぱちりと揺れるのを煉獄は見逃さない。

少しの沈黙の後、口を開いた。

「今晩は、炎柱様。治療をさせて頂く水瀬と申します。…失礼ですが治療の為に上半身の服を脱いで頂けますか」

「む、有り難い」

「お気遣いなく」

折れた腕を庇うようにして隊服を脱ぐと、Aはそれを受け取って折り畳み、近くの机に置く。

引き締まった無駄の無い筋肉に、見てて痛々しい古傷の数々。あちこちに飛び散った返り血らしき血飛沫の後がまたこの身体を引き立てている。

Aは優しく煉獄の身体を拭いた。

「……ッ」

消毒液を浸したガーゼを傷の箇所に当てる。染みた時特有の刺すような痛みに肩をびくつかせた煉獄に頭を下げる。

「すみません。少しだけ我慢して下さい。もう直ぐで終わります」

「大丈夫だ、続けてくれ。治療して貰っているんだ、患者はそれに従うまでだ」


お優しいんですね と言いながら包帯を片手に取る。右腕から首にかけてを繰り返し繰り返し巻き付ける。手が回らないところは口を使い、腕があまり動かないようにきつく縛った。

それに続くよう、左足、肋と手際良く治療を進める。ものの1時間足らずで処置は終わってしまった。

「…これで一先ず処置は終わりました。暫くは要安静です、今日はもう疲れたでしょう。ゆっくりなさってください」

Aは松葉杖を渡し、煉獄を病室まで案内した。慣れない歩行補助器具を使う彼に歩調を合わせ、背中を支えながら言っていた。

「夜分遅くにすまなかった。世話になるな」

「いえ、これが仕事ですから」

事務的な返しをし、ベッドに入る介助をする。掛け布団を掛け、マッチの火を蝋燭に移した。

ぼんやりと薫る火は彼女の整った顔を彩る。目の下の濃い隈に、血管さえも見えてしまいそうなほど白い肌。容姿端麗、眉目秀麗と言う言葉がまさに似合う顔立ちだ。

「貴方にこの鈴を託します。何かあったら一振り鳴らしてください。直ぐに駆け付けますので」

Aは引き出しの中から、紐に括られた小さな鈴を取り出した。試しに一振り振ると、チリン と繊細な音が聞こえてくる。ね?と彼女は目を細めて笑った。

ふっ と蝋燭の火を息で吹き消される。辺りが闇に包まれた。

おやすみなさい

暗がりの中から聞こえる声。床に響く足音は徐々に遠くなっていく。煉獄は疲労困憊の身体に目を閉じた。

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橘欅(プロフ) - ネコ2世さん» コメントありがとうございます!幸せな気持ちになっていただけるなんて…光栄です!どうかこの作品をご贔屓に! (2019年11月13日 16時) (レス) id: 4f6b87549d (このIDを非表示/違反報告)
ネコ2世 - 主人公が可愛らしくて好きです!煉獄さんとのやり取りが微笑ましくて読んでる側もすごく幸せな気持ちになります! (2019年11月12日 16時) (レス) id: 6d89e33ad2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:橘欅 | 作成日時:2019年11月10日 22時

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