始まりにも似た何か ページ1
包帯を片腕に巻いた少女。羽織が夜風に靡き、耳飾りが揺れた。
満月を背に一人歌い踊る姿はまさしく蝶。美しさの影にある帯びた悲しみの青や、闇に包まれる漆黒、舞そのものの可憐さの明るい色がアゲハ蝶を連想させた。誰の肩に止まるまでもなく、花を求めて風に舞う。
一人任務から帰って来た煉獄。負傷した傷を介抱してもらう為に蝶屋敷に来たのだったが、庭から聞こえてきた歌声に惹かれ、遠くからその声の正体を眺めてしまったのだ。
「…よもや」
無意識のうちに、感嘆にも声が出てしまった。一目惚れなのだろうか。まるで雷撃のような熱い何かが込み上げて来るのだ。
煉獄の気配に気が付いたその女はゆっくりと背後を振り向いた。銀髪の髪が、巻き込まれた空気に膨らむ。肩ほどまでしか無い短髪は月の光に一本一本きらきらと輝き、それは宝石のよう。
アゲハ蝶は羽を折り畳んでどこかを睨む。
「そこに誰か居るでしょ」
何も悪い事はしていないが、その場に隠れてしまった。息を飲み、その美しさに目を奪われてしまう。彼女の薄氷のような目が夜闇に輝くのだ。
アゲハ蝶は消された気配に小首を傾げて何処かに消え去ってしまった。鈴の音がしゃんと鳴り、また静寂に包まれる。
暫く茫然とした後に、ずきりと負傷した箇所が 俺を忘れるな と言わんばかりに疼き出す。
蟲柱の名前を呼び、治療を求める事にした。
............
「右腕と左足、加えて肋が二本折れてますね。此処で療養しましょうか」
「かたじけない!」
笑顔で重症という申告を受けた。深夜という時間帯でも手当してくれるのはとてもありがたい事だ。煉獄は素直に胡蝶に感謝を述べる。
しかし、しのぶは申し訳なさそうに眉を下げた。すみません の言葉の後に続く。
「治療したいのは山々なんですが、私も今さっき任務の通告が来たのでもう行かなきゃいけないんです…。なので代わりの人を用意しますね」
しのぶが手を二回叩いた。遠くから、しゃん とまた鈴の音が聞こえる。足音もなく、一瞬のうちにしのぶの背後には、あのアゲハ蝶の女が立っていた。
「A、私の代わりに煉獄さんの手当てをして下さい。消毒液と包帯は何時ものところにあります。これから任務で暫く外すので、此処のことは頼みましたよ」
「わかったわ。気を付けて」
隊服を腕まくりし、片方の羽織りだけに腕を通した少女の名前はAというらしい。その顔に、その声に相応しい可愛らしい名前だった。
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橘欅(プロフ) - ネコ2世さん» コメントありがとうございます!幸せな気持ちになっていただけるなんて…光栄です!どうかこの作品をご贔屓に! (2019年11月13日 16時) (レス) id: 4f6b87549d (このIDを非表示/違反報告)
ネコ2世 - 主人公が可愛らしくて好きです!煉獄さんとのやり取りが微笑ましくて読んでる側もすごく幸せな気持ちになります! (2019年11月12日 16時) (レス) id: 6d89e33ad2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:橘欅 | 作成日時:2019年11月10日 22時