365日 (ページ31)

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「A。」

再び海を見ていると、思っていたよりもずっと早く
背中の方から名前を呼ばれ、振り返る。

『系さん。
お疲れさまです。』

「おう。
好きだな、ここ。」

優しくそう言いながら隣に座り
缶のカフェオレを手渡してくれた。

『ありがとうございます。』

「いつからいる？」

『1時間半くらいです。』

腕時計で確認しながら答える。

「このクソ暑いのに。」

系さんは、しょうがないやつだと言うような表情で
でも微笑みながらこちらを見る。

『もう残暑ですし
ここ、木陰で涼しいですよ。』

「確かに。気持ちがいいな。」

系さんも、つられるように木を見上げる。
葉の間から漏れる光に目を細めた。

『何も考えずにいられます。』

「何も考えたくないと思うような事でもあったのか？」

上を向いたままの系さんから、ふいに意表を突いた質問。
ぱっと系さんの方を見た後、海へと視線を戻す。

系さんは頭を元の位置に戻すと、ブラックの
缶コーヒーのプルタブを開け、一口飲む。
私も、手で弄んでいた缶を開け、一口飲んだ。

『三澄さんにご協力頂けて良かったですよね。』

「Aがああ言ってくれたからだ。」

『いえ、私は何も…

やっぱり三澄さんはすごいです。
次々、考察や症例を上げてこられて。

私も、もっともっと頑張らないと。』

「あいつが持ってくるのは大体
Aがすでに上げてきたやつだがな。」

『えっ…？』

そういえば、三澄さんが系さんの所に来ると
いつも何となく席を外してしまっていた。

系さんの方を見ると
とても優しい表情でこちらを見ていて
ゆっくりと伸びてきた手が、くしゃっと私の髪を撫でる。

「お前には期待している。

ただし、俺のそばを離れるなよ。」

『はい…。』

勝手に気を揉んでいた事への恥ずかしさと
自分の弱さへの情けなさと
それでも湧いてくる嬉しさに、少し涙ぐみながら
小さく頷いた。