365日 (ページ28)

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a long progression of rainy days④ ページ28

「さて、どこまでお送りしましょう？」

木林さんが車のキーを指に引っ掛け、くるくると回す。

『送ってくださるのですか？』

「もちろんです。」

少し考え、系さん方へ向き直る。

『中堂さん、よろしければ今夜はうちに来ませんか？
ここからなら、うちの方が近いですし。

あ、もちろん、ご都合もあると思うので
UDIラボでも、中堂さんの家でも、別々でも…』

段々と声が小さくなる私の前で
系さんが、ちらっと木林さんを見る。

すると木林さんは、とりあえず車を回して来ますね、と
傘を開き、駐車場へと向かっていった。

申し訳ないなと思いながら
木林さんの後ろ姿を見送っていると
系さんが私の頬に優しく触れたので
再度系さんの方へ向き直る。

「…助かる。
邪魔して良いか。」

少し苦しそうに微笑む系さんの表情を見て
心臓の奥の方で、冷たい錘のようなものが
根を張ったように居座り
喉の奥が苦しくて、ぐっと飲み、食いしばるので
耳の後ろが痛い。

せめて、自分の体温を分け与えるように
頬に触れる系さんの手に手を合わせ、目を閉じた。

パッと車のヘッドライトに照らされたのか
瞼の裏が明かりを感じたので、目を開けると
系さんが眩しそうに目を細めていた。

そっと手を離し、ゆっくりと振り返り
木林さんが横付けして下さった車に乗り込む。

『ではすみません、場所は…』

「最寄り駅まででいい。」

家の場所をお伝えしようとした所で、系さんに遮られた。

「家の前までお送りしますよ？」

「いや、いい。」

「…なるほど。分かりました。」

ミラーに映った木林さんが、悪戯な笑顔でこちらを見る。
系さんは窓の外を見ている。

木林さんは、相手の気持ちを組むのがとても上手だ。
私もそんな風に瞬時に察する事ができたら良いのに、と
少し羨ましく感じながら、私も系さんと一緒に
通り過ぎる景色を見つめた。

『わざわざ送って下さってありがとうございました。
雨ですし、帰りもお気を付けて。』

「ありがとうございます。
ではまた。」

木林さんはにっこりと笑い、アクセルを踏むと
黒い車は滑るように、雨で霞む夜の道に消えて行った。

『系さん、どこか寄りますか？』

「いや、いい。」

『？何か用事があるのかと思っていました。』

「特にない。行くぞ。」

そう言い、歩き始めた系さんを小走りで追う。

すぐ立ち止まり、こちらを振り返る系さんに追いつくと
同じ歩幅で並んで歩き始めた。