365日 (ページ22)

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好きな人③ ページ22

それにしても、今日の私は本当にひどかった。

どうしても頭がぼーっとしてしまい
手に取ろうとしたメスを落としたり
写真を撮ろうと移動する際に、解剖台の角に
足の付け根をぶつけてしまったり
そもそも、身体が重いため動きが鈍く
いつもよりお二人をお待たせしてしまった。

「どうした？東海林の風邪がうつったか？」

系さんが、心配そうに私の顔を覗き込む。

『いえ、申し訳ありません。
体調が悪いわけではないので大丈夫です。』

「A、大丈夫？結構痛そうな音したけど…」

『大丈夫です。注意力散漫で、すみません。』

ただでさえ忙しいのに、私のせいで
迷惑をかけるわけにはいかない。
集中しなければ。

途中から久部さんも戻ってきてくださったこともあり
その後は何とか持ち直し、予定までの解剖を終えた。

とっくにお昼の時間は過ぎてしまったが
最後に来るご遺体まで少し時間が空くため
休憩時間となった。

片付けを終えて、三澄さんと久部さんとオフィスに戻ると
先に解剖室を出た系さんの姿は、すでになかった。

「A、久部くん、お昼行こう。」

「もうお昼って時間じゃないですけどね。」

三澄さんがお財布を手に、誘って下さり
久部さんが、苦笑しながらもそれに答える。

『あ、すみません。
ちょっと用事があるので、せっかくですが
ご飯はお二人で食べていて下さい。』

「分かった。中庭にいるから
間に合うようなら途中からでもおいで。」

『ありがとうございます。』

三澄さんと久部さんがオフィスを出て行くのを見送ると
すぐ、デスクの引き出しにしまってあった鎮痛剤を飲み
大きめのひざ掛けを手に取ると
鉛のように重たい身体を引きずりながら
ゆっくりを階段を登り、屋上へと向かった。

屋上へ着くと、倒れ込むようにベンチへ寝ころぶ。
天気が良く、暖かい日で良かった。

身体を丸め、ひざ掛けを巻きつけ
なんとか開けていた瞼を、ようやく閉じる。

時折頬をなでる風に
空を飛んでいるような気持ちになりながら
すっと落ちるように眠りについた。