1話 ページ3
「初めまして。私は産屋敷耀哉。今回は本当に災難だったね」
目を覚ましたらまったく見覚えのない景色に全く面識のない人だった。
それに、この人の声が優しすぎて天国に来たのかと思ってしまった。
「…初め、まして。私は…亂藤Aです。ここは…?」
「記憶はあるみたいだね。ここは蝶屋敷といって簡単に言えば人を治療するところだよ」
「じゃああなたは、お医者さん?」
「ううん。…いや、今はそれでいいよ」
額に痣がある彼は優しく微笑んだ。
「まだ混乱しているだろうから、もう少し回復してからまた診に来るね」
「…はい」
「何か聞きたいことがあったらここの人に聞くといいよ」
「ありがとうございます」
彼はそう言い残して部屋を去って行った。
.
部屋は清潔で、ベッドが数台並べられていた。
たぶん天国ではない。
私はあの時生き残ってしまったのだろう。
(そういえばあの時助けてくれた人は一体誰だったんだろう)
夜の闇の中、悲鳴と血飛沫がそこら中に湧き上がり、もうだめだと諦めかけた時だった。
誰かが元凶を断ち切った。
私はそれを見た後すぐ失神してしまった。
(その人がここまで連れてきてくれたのかな。今度会ったらお礼を言わなくちゃ)
――不思議と涙は出なかった。
家族を殺されたというのに。
いや、あの夜は殺された家族や友人を見て泣き叫んでいた。
そして私ももう死ぬ、死んだと思ったのだ。
だから今の状況に頭がついていかないだけかもしれない。
(これからどうなってしまうのだろう)
ただ漠然と広がる不安に答えは見つからず、私は布団を被りなおした。
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作者名:うみりな* | 作者ホームページ:http://blogs.yahoo.co.jp/haruhi_0204mind
作成日時:2019年10月29日 18時