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数年同じ町で暮らしていると、よく見かけるひとって結構いる。


毎朝駅に向かって私よりすこし先を行く色褪せたキャンバスシューズの学生や、酒店の前に座って煙草をふかしている日に焼けたおじさん。休みの日の夕方、海岸沿いで赤い首輪の柴犬を散歩させているおばあさん。それ以外にも、何人も。



タツも、その中のひとりに過ぎなかった。


駅前のロータリーやその近くの公園のベンチでたまに姿を見る、背が高くてずいぶんと整った顔をした若い男のひと。


思い返せばおかしなところはあったけれど、不気味な感じはしなかったしあまりにも自然に町に溶け込んでいるから、まさか、そういう存在であるとはちっとも思わなかった。



「なにかお困りですか。」


よく晴れた日。防波堤にしゃがみこんで、きらきらと光る水面を呆然と眺めていた私にタツはそう話しかけてきた。誕生日の朝だった。

見上げてすこし驚く。あ、あのひとだ。と思った。この町でたまに見かけるハンサムなひと。

こんなに近くで見るのは初めてで、近くで見るとより綺麗な顔立ちに私はすこしの間息を飲んでしまった。



「あ……ピアス、落としちゃって。でも大丈夫です。すみません。どうもありがとうございます。」


なるべく感じよく丁寧にお礼を言って頭を下げる。


ほんとうは途方に暮れていた。もう長いことずっと着けている気に入りのピアスだったから。


前の日に商店街の洋食屋でひとりで夕食を食べたときはまだ着けていたのを覚えている。

誕生日前夜だから、と調子に乗って苦手なはずの赤ワインを飲んだのがいけなかったのだ。そのあと酔っ払って海岸沿いをふらふらと歩いて、気がついたら昨夜の格好のまま、家のソファで眠っていた。どうやって帰ってきたのかも、覚えていない。

そして朝目を覚ましたとき、片方のピアスはもうなくなっていた。

早朝から探し回って数時間、血眼になって探したけれどついに見つからず、海を眺めることしかできなかった。



親切はうれしい。だけど見ず知らずのひとに探すのを手伝ってもらうのも気が引ける。



「やっぱり。俺のこと見えてるんや。」



だけどタツはそう言ってにんまりと笑って、「落としたん、これ?」とややくすんだ金色のちいさな星形のピアスを手に乗せて差し出してきた。




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蒼 夢見子(プロフ) - まゆ☆まゆさん» まゆ☆まゆ様、お久しぶりです…!早速コメントくださりありがとうございます。かなり前のお話をまだ読み返していただけてうれしいです…(T . T)少しずつの更新にはなりますがお付き合いいただけると幸いです! (2022年11月20日 18時) (レス) id: a5f8e6e331 (このIDを非表示/違反報告)
まゆ☆まゆ(プロフ) - お久しぶりです。数日前に満月の夜は〜を読み返したばかりです(⁠^⁠^⁠)また蒼夢見子さんの新作読めるの嬉しいです♪続きも楽しみにしてます。 (2022年11月20日 6時) (レス) id: 9548b7921c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2022年11月20日 0時

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