雨に沈む傘【オリジナル小説】 (ページ2)

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一話ページ2

ぱた、と一粒の雨がバスの窓を叩いてから、街中が水浸しになるまではあっという間だった。

　天気予報は悲しくなるほどの大外れを決めたことになる。今朝の情報番組で、「今日はお洗濯日和です！外に干すのがおすすめですよ」なんて可愛い笑顔で言っていたお天気お姉さんは何だったのだろうか。外に干した洗濯物は、十中八九洗い立てのようにしっとりしている。

　折りたたみ傘なんてかさばるものを持ち歩いていない二ノ宮(にのみや)伶香(れいか)は、晴れの日と何一つ変わらない足取りでバスを降りた。実は晴れているのではと周りに思わせるほど、堂々とした態度だった。
　実際はそんなわけもなく、大粒の雨は容赦なく彼女の頭を叩いた。一瞬不快そうに目を細めたものの、伶香は動じない。

　どうせここから家までは十分以上の道のりで、そう遠くない未来に遅かれ早かれ全身がびしょ濡れになることははっきりしている。急いで走ろうが、ゆっくり歩こうが、同じことだ。問題があるとすれば、スクールバックの中の教科書たちが濡れることだろう。あまり意味を成さないとは思いつつ、申し訳程度にお腹へ抱え込むように持ち直す。

　家に帰ったら濡れた本の乾かし方を検索しようと頭の片隅で考えながら歩き出した。まさか本当にこの大雨から教科書を護れるだなんて思っちゃいない。

　同じバス停のお仲間が全員降りてからバスが出発するまでの間に、伶香のローファーには水がしみ始めていた。ばさり、ばさり、と背後で次々に開かれる傘が、お前は差さないのかと急かしているようだ。

(ローファーって濡れて大丈夫だったっけか)

　どちらにせよ、もう濡れているのだから気にすることは何もないと考え直す。潔く水溜まりを踏んだ。

　しばらく歩くと、さすがに周囲の目が視界に入るようになってきた。道行く人が、降り注ぐ雨の中で濡れ鼠になりながら黙々と進む伶香を、信じられないといった様子で眺め、あるいは振り向く。
　中には傘を差しかけてやろうかと思案する者もあったが、迷っている間に当の伶香は通り過ぎてしまった。

　最初の交差点で赤く光る信号に捕まって、伶香は周りを見回した。

　少し後ろに、申し訳程度の軒先を歩道に伸ばす和食レストラン。曲がり角には青と緑と白のコンビニがあるが、言わずもがな、雨宿りできるようなスペースは存在しない。信号待ちの間、伶香の身を守ってくれるものはゼロである。

　伶香は諦めて、その場で待つことにした。