Atlas

銀細工 ページ38

隆二Side



「えっと……わたしの名前はAっていいます」




沈黙が続く中。わかなちゃんにそっくりなAちゃんは自己紹介からはじめてくれた




そこで衝撃的な言葉を聞く









だってAちゃんは臣と結婚していると言った









聞いてない






臣……お前、最近集まった時にもそんな話全くしてなかったよな









Aちゃんから経緯と2人の状況などを色々聞いてだんだんわかってきた









形だけ妻になったAちゃんの気持ちも









臣の事だから正直俺が話していい話じゃないと思う。
少なからずこの子は臣の事を好きなわけだし、聞いてもいいことなんか一つもないだろう





それでも目の前のこの子は「聞かせてください」という。
心の強い女の子だ





「俺も聞いた話だから全部はしらないよ？」




と、前置きをしてから「わかなちゃん」のことを話した









臣が今でも忘れられない女の子









2人が付き合っていた時期
趣味で始めていた手作りの銀細工



不格好な１作目はわかなちゃんの胸元で光っていたのを今でも覚えている






一緒に始めたはずなのに器用な臣は俺よりもどんどん技術を磨いて




ある日、





「明日俺これもってアイツに言ってくるわ」






臣の手元にはペアの指輪







将来を誓う指輪








それを渡したはずの日にわかなちゃんはいなくなった






断られたわけじゃなく、いい返事をもらったらしい。
その後恐らく照れ隠しで臣がジュースを買いに行っている間にわかなちゃんは元いた場所にはいなくなっていた





さっきまで2人でいた場所にはあげたばかりの指輪がその場に落ちていて







目の前の海のテトラポットの先に見覚えのある麦わら帽子が浮かんでいた






わかなちゃんは忽然と姿を消した






それ以降臣の前にわかなちゃんが戻ってくることはなかった

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