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もう神様の件の不安や恐怖心も薄れてきて、今後はあの事件を忘れて暮らすつもりだったのだが、人生そう上手くはいかないものである。件の軍事施設でいつも通りに訓練の外での走り込みをしていた。いつも通りで何もないことが、これ以上ないほどに纏里に安堵を与える。ふと、フェンスの向こう側から視線がこちらに向けられているような気がして、フェンスの方に振り返るとそこには見知った顔がいた。
口を開けたそれが言ったのかは全く聞こえなかったのに、はっきりとそいつの声で頭の中で「見つけた」という言葉が反芻されている。纏里を見つめる神様を見た瞬間、纏里はその施設から逃げ出した。誰にも何も言わず、荒ぶる息と上がっていく心拍数を必死に隠しながら、誰にも何も告げず、部屋の荷物をひったくるように適当に詰めて施設から逃げていった。
まただ。また逃げなきゃ。もっともっと遠いところに。
誰にも見つからないような、もっともっと知らない場所に。
数年前のあの時のように、宛もなくただひたすら走って走って、走れなくなっても、せめて歩いて足を止めずに、進み続けた。何日足を動かし続けたのだろうか。何日もかけてやっと辿り着いた場所は、ネオンの光が目を眩ませるような大都会。ゆく宛もなくふらふらと歩いていた。ここまで逃げれば、きっともう追いかけてこないだろうと思っていた。そんなことを考えながら路地をさまようも、離れたところまで来たという実感と、誰からも視線を向けられない路地ということで安心したのか、緊張の糸が途切れ、落ちるように眠った。それを見つけたとある人物に拾われることになるのだが、それはまた別の話。
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作者名:兎依 | 作成日時:2022年11月2日 22時