師匠？ ページ29
暫くして正気を取り戻した東矢が、龍騎に問う。
｢……待て、どういうことだ。俺が師匠？｣
｢うん……オレ、ヒーローになりたい！ 父ちゃんみたいに、色んな人を救える立派なヒーローになりたいんだ！｣
｢おうそれはわかった。わかったが……｣
その眼に偽りはない。
純粋な憧れと向上心の塊の、光輝く綺麗な目。
｢……なんで俺らなんだよ……｣
｢決まってるだろ！ オレの憧れの人その二その三だからだよ！｣
｢わ、私も!?｣
いきなり指名され驚く奏乃を置いて、龍騎は続ける。
｢……あの日、二人が来なかったら、オレはとっくに死んでた。特に助ける理由なんてなかったのに、草薙さん達はオレを、しかも何の見返りもなく助けてくれた。｣
｢おう、まぁ助けたかっただけだったからな……｣
｢そうだね、特に何も考えてなかった｣
｢だからだよ！ 理由なんて、見返りなんていらないってただ助けてくれた二人だからこそ頼みたいんだ！｣
龍騎の思い浮かべる、理想のヒーロー像。
力無くとも戦う立派な父は確かにそうだが、力を持ち、それを正しいことの為だけに振るえる東矢と奏乃もまた、龍騎の憧れの的となるのだ。
｢だからお願いします！ どうかオレを、弟子にしてください！｣
｢ダメだ｣
｢早い!?｣
一呼吸の間もなく東矢が断りを入れる。
｢……お前今何歳だ｣
｢え、じ、12歳……｣
｢まだ小学生じゃねぇか！ 危なすぎるわ！｣
……妥当な判断である。
龍騎は、ヒーローとして戦うにはあまりにも幼すぎる。
確かにその素質は素晴らしいだろうし、磨けばすぐに光ることは容易に想像できる。
しかしだからこそ、力に溺れ己を過信していき命を落とした人間を、東矢は数多く見てきた。
例えば怪人であったり、突っ込んでいって東矢に助けられなければ即死を免れない怪我を負うところだった新米ヒーローだとか。
｢……だから、まずは勉強に励んどけ。学生らしくな｣
｢でも……！｣
抗議しようとする龍騎に、後まで聞かず東矢は背を向ける。
｢草薙さ……！｣
｢……日曜日｣
｢……へ？｣
｢日曜日、空いてるか｣
｢え、あ、うん……｣
｢……いつでも来い。稽古くらいしてやる｣
｢……！ ありがとうございます！｣
去っていくその背中が、いつかの光景に重なる。
ぼやける意識の中、朧気ながら確かに見たその背中。
やっぱり、大きく頼りになる背中であった。
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作者名：クロロフィル@深緑の指揮者 x他1人 | 作者ホームページ：http
作成日時：2023年3月8日 14時
