ポテチ ページ36
事務所のソファに座り、またポテチを口に運んでいる東矢。
「んー……」
「また食べてますね」
「ん、んまいんだよこれ」
ほれ、と差し出せば不服そうにしつつも奏乃も食べ始める。
「……でもうま塩味は本当に美味しいんですもんねぇ」
「だろ?」
「はい」
一口摘まんで伸びをする奏乃を見つめる東矢は、何を思ったか不意に奏乃の手を掴んだ。
「!?」
「ん、一緒に座って食おうぜ」
「えっ……?」
東矢に引っ張られて着席したのは良いものの、肝心の位置が奏乃の脳内をパニックで埋め尽くしていた。
東矢の無造作に開かれた足の間。
そこにポテチの袋に手を伸ばすために体に回された腕。
東矢は意図していないのであろうが、気づけばバックハグの姿勢に持ち込まれてしまっていた。
東矢に抱かれているという事実に恥ずかしさのあまり震えることしか出来ない奏乃に、東矢が心配したように呟く。
「……大丈夫か?」
「ひゃうっ!?」
耳元で、それも一方的に想いを寄せる相手から囁かれたら、奏乃でなくとも思わず声を上げてしまうだろう。
そして再び顔を真っ赤に染め上げてしまう。
「食べないのか……?」
「たっ、食べます! 食べますから! 私大丈夫ですってか何なら今幸せですから!」
「そ、そうか、ならいいんだが」
思わず早口で捲し立てるように言ってしまったが、東矢に包み込まれている状況で「幸せ」だなんて、失言してしまったのでは……
そう考え、ゆっくりと上を向くも、
「?」
あるのは普段通り微笑む彼の美顔のみ。
「……本当に草薙さんは……人たらしが過ぎますって……」
「どうした? 奏乃ー?」
どうしてここまでなっても気付かないのかと大声を上げたくなる衝動をぐっと堪え、鈍感で愛おしい彼の抱えるポテチを摘まむ。
……真っ赤になっちゃった顔見ても、きっとこの人は気付かないんだろうな。
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作者名:クロロフィル@深緑の指揮者 x他1人 | 作者ホームページ:http
作成日時:2023年3月8日 14時