君の名を呼ぶ (ページ10)

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　メイド長には、遅い！と叱られたけれど、北斗さんとジェシーさんが一緒だったのをジェシーさんが話してくれて、やれやれとメイド長は荷物を受け取ってくれた。

「着替えておいで、すぐに食事の支度だよ」

　そう言われて慌ててメイドルームで給仕服に着替えを済ませると、急いでキッチンへ向かった。

「あ、Aさん」

　廊下を曲がったところで、優しい声に呼び止められる。立ち止まって顔を上げると、

「ゴメン、急いでるよね？」

と少し眉を下げた北斗さんがいた。

「え、と……これからお食事の支度を、」
「そっか、そうだよね」

　ゴメン、と呟いた北斗さんは、少し何かを躊躇うように間を置いてから、

「……ジェシーと、一緒だったんだね」

と、またあの時みたいな寂しげな顔をした。

「あの……ジェシーさんがこちらへ向かわれている途中に、偶然お会いして」
「偶然？ホントに？」
「はい」

　北斗さんは、何故か少しホッとしたように息を吐くと、

「買物、荷物多い時は遠慮しないで、車出してくれていいからね？」

と微笑んだ。

「え……っと、ありがとうございます。でも、それはあの」
「俺が付き合える時は、付き合うし」

　荷物持つくらいなら出来るから、なんて北斗さんの言葉に、

「とんでもないです！……ありがとうございます、お心遣いだけで」

と私も笑って返した。
　では、とぺこりと頭を下げて北斗さんの横を通り過ぎると、

「ね、Aさん」

とまた北斗さんに呼び止められた。

「はい、何でしょうか？」
「……え、っと、昨日の紅茶とクラッカー、まだあるかな？」
「はい、ございます」
「そっか。じゃあ、食事の後に準備お願いしていいかな？」
「承知致しました。今日はクランベリーのジャムも手に入ったんですが、ご一緒にお持ちしますか？」
「うん、お願い」
「はい、かしこまりました」

　律儀過ぎるくらいに深く頭を下げて、私はキッチンへと向かった。
　北斗さんの視線が優しくて……まともに北斗さんの顔も見られなかった。