君の名を呼ぶ (ページ9)

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　10分ほどすると駅に電車が入ってくるのが見えて、ほどなくパラパラと人が駅舎から出て来る。普段は、北斗さんが送迎を嫌って電車で学校へ通うのもジェシーさんは知っていて、

「この電車の、はず……」

あー！北斗！！と、人混みの中に黒髪の北斗さんを見つけると、周りも憚らずに交差点の向こうの北斗さんに手を振った。

「ジェ、ス……え？」

　ジェシーさんを見つけた北斗さんの顔色が変わるのがこちら側からもすぐにわかって、

「やっべ、手ェ繋いだままだった」

と、私の顔をのぞきこんだジェシーさんが、ペロリと舌を出して、ゴメン、とようやくその手を離すと、

「ジェシー！」

と、信号が変わるのを待ちきれなかった北斗さんが、車が途切れるのを見計らって、横断歩道じゃない場所を走って横切って来た。

「何！？え何で、何やってんの！？」

　肩で息をする北斗さんは、ジェシーさんにと言うより私に向かってそう言って、

「あの、今日のワインの買い出しに参りました」

と答えた私の手に、北斗さんの視線が落ちた気がした。

「北斗ん家行く途中で、たまたまAちゃん見かけてさ？俺のための買い出しだって言うじゃん？だから手伝おうかなぁって」

　ね？と私の顔を覗き込むジェシーさんに、困って苦笑いで返す。

「お前がそんなことする必要ねぇのよ」

と少し声色を落とした北斗さんに、

「メイドさんのお仕事も大変だね」

と穏やかな声のジェシーさんは、

「車呼ぶ？」

と、ポケットからスマホを取り出した。

「あの、私はこのまま参りますので……」
「じゃあ俺も歩く」
「え！？北斗さん……！？」
「なぁに、みんな歩くの？健康的でいいね！」

　私の言葉に被せ気味で言った北斗さんの言葉に、じゃあ行こうってジェシーさんが真ん中に入って、両手で私と北斗さんと肩を組んで。

「ジェシー、お前歩きにくいよ」
「いいからいいからー」

　全然良くないんだけど、と困り顔の北斗さんの表情に思わず笑ってしまうと、ようやく北斗さんの表情も少し柔らかくなった気がした。