君の名を呼ぶ (ページ37)

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　彼女の言った通り、立派な黒塗りのミニバンが学校を出てすぐのパーキングに停まっていてすげぇなと感心したのも束の間、どうぞと運転手らしき人が開けてくれた後部座席に乗り込んだ。隣に彼女が遠慮がちに少しスペースを空けて座って、シートベルトを締めると車はすぐに走り出した。

「何か……図々しくてゴメン」

　車に揺られて冷静になれば、随分と身勝手な行動だったと改めて思い知って、窮屈に彼女に頭を下げた。

「いいのいいの、ね、松村くん頭上げて！」

　両手を前でふるふる振って慌てふためく彼女に、ちょっと子犬みたいだななんて思ってつい笑みが零れる。そこで、彼女も同じようにふっと微笑むから、尚更申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。

　家の前に着くと、慌ててシートベルトを外して、それでも焦る気持ちを落ち着かせようとふっと息を吐く。

「ありがとう、ホント助かった」

　彼女を振り返ってそう告げれば、まだ何か言いたげな彼女と目が合った。黒目がちで真ん丸な瞳で見つめられて、その真っ直ぐさに喉が鳴る。このままじゃ変な情に囚われてしまいそうで、

「じゃあまた……」

と言いかけたら、彼女の指先が遠慮がちに俺の袖口を摘んだ。

「松村くん……」

　ヤバい、と思った次の瞬間、

「北斗ー？帰ってきたー？」

と騒がしい声が聞こえて辺りを見回すと、二階の窓からデカい派手な髪色がこっちに向かって手を振っているのが見えた。
　ナイス、ジェシー！と思った次の瞬間、

「お客さん？入ってもらいなよ！」

と陽気に手招きするもんだから、俺は口をあんぐり開けて言葉を失ってしまった。

「いや、お前ん家じゃないのよ」
「松村、くん……？」
「あ……っと……良かったら、お茶くらいなら出せる、けど……」

　寄ってく？と聞けば、彼女はぱあっと分かりやすく笑顔になって、それはそれで可愛いなと思う。けれど、

「Aちゃーん！たーいへん！北斗がお友達連れてきた！」

　ヤバ！DAHAHAHA！と、随分失礼な台詞を大声で叫ぶジェシーが呼んだその名前に、俺の胸に何かがグッとつっかえた気がした。