君の名を呼ぶ (ページ35)

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「……は、い」
「北斗、もう学校行った？」
「はい、先程出られました。一限だけなので、すぐに戻られるとの事でした」
「……そっか」

　そう言ったジェシーさんの影がゆらりと動いて、思わず息を飲む。けれど、ジェシーさんは私の隣をすり抜けると、ぽすん、とベッドの端に腰を下ろすと、驚くくらい長いその脚を豪快に組んでそこへ肘を置いて頬杖をついた。

「バタバタすんね」
「いえ、そんなことは」
「Aちゃん、ホントにマジメでいい子」
「……ご冗談を、」
「俺、マジメな子、好きだよ」

　ジェシーさんの表情は柔らかく微笑んでいるけれど、言葉の温度がやや高い。いつも北斗さんと話す少年のようなジェシーさんとは明らかに違う。

「私は……仕事ですので」

　確認を終えて綺麗に畳み直した洗濯物を手に取って、

「それでは、お預かり致します」

と立ち上がろうとした私の腕をジェシーさんの手が掴んだ拍子に、手に取った洗濯物が零れて落ちた。ヤだ、せっかく畳んだのに。

「申し訳ありません、お洗濯物が、」
「お仕事だもんネ？」

　ジェシーさんの声のトーンが、少しだけ落ちた気がした。その途端に、お部屋の空気も少しだけ重くなった。

「北斗のことも、お仕事なんでしょ？」

　ジェシーさんの言葉の意味に、胸がザワザワする。ジェシーさんは、そんな私の胸の内を見透かすみたいに、

「雇い主とメイドさんだもん、ダメに決まってる」

と、抑揚のないトーンで言った。

「……もちろんです」
「だよね、北斗もきっと、そんなつもりないだろうし」

　ジェシーさんの言葉は、残酷だけれど正論で。柔らかく微笑んで、時々からかって、夕べのガウンやさっき出かけに髪を撫でられたことも全部、北斗さんの優しさだけれど。

「でも……俺はそうじゃないじゃん？」
「ジェシー、さん……？」
「俺は北斗の友達だけど、Aちゃんの雇い主じゃないし」

　私の手を掴むジェシーさんの手が、グッと熱くなった気がした。その手をゆっくりと引き寄せてジェシーさんの領域に引き込まれると、いつになく熱っぽいジェシーさんの視線が、私を縛りつけた。

「……好きなんだけど、Aちゃんのこと」

　ジェシーと二人きりにならないで、という北斗さんの言葉の意味が、そこで途端に現実味を帯びてしまった。