シンデレラグレイ (ページ17)

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料理を楽しんで、そのままそこでワインを二人で何本か空けて、あっという間にジェシーをレンタルした時間の終わりが近づいている。
　場所を変えて飲み直そうかとも思ったけれど、お店に置いてあるワインがどれもいいモノだよ、と教えてくれたジェシーの言葉に、今日はワインを堪能しようと決めて、私達はその狭い半個室で二人の世界と時間を楽しんだ。

　本当の恋人同士ならきっと、この後は二人、当然のようにもっと濃密な夜が待っているはず。でも私達は『ニセモノ』で、それ以上は進めない。時間が来れば綺麗さっぱりサヨナラで、私と会っていない間のジェシーはきっと、他の女の子と同じような時間を過ごしている。その中には、ジェシーに本気で恋している子だっているに違いない。

「また、指名してね」

　駅まで続く大通りを手を繋いで歩いていたら、ジェシーが残り少ない時間を惜しむような声でそう言った。
　指名……そうだよね。楽しい時間を過ごしている間は忘れてしまっているけど、私はジェシーとの時間を買っているんだ。途端に、ジェシーの優しさも今までの楽しかった時間も何もかも、虚しく思えてしまった。
　さっきまでの楽しい時間が少し色褪せた気がして、何だか情緒不安定な自分に戸惑ってしまう。

「……うん、機会があれば、ね」
「……A？」

　立ち止まったジェシーが、私を見下ろした。
　きっと、ほんの僅か前までの和やかな雰囲気からはすっかり色が変わってしまった二人の間の空気が、一気にどろりと重みを増した。

「何でそんな言い方するの？」

　少し悲しそうに眉を下げるジェシーが、何故か小さな仔犬みたいに見える。でもきっとそれも、ジェシーの『仕事の顔』の一つなんだと思えば、それはそうかと自己解決してしまう。

「もう、俺と会いたくない？」
「別に、そんなんじゃないよ」
「じゃあ何？」

　あまり聞いたことがないジェシーの声色に、怯んでしまいそうになる。それでも、やっぱり私達はケンカする程の仲でもなくて、

「ジェシーこそ……あんまり思わせぶりなこと言うと、良くないんじゃないの？」

と、ジェシーに溺れないようにと強がりを言って見せたら、

「……どういう意味？」

と、ジェシーの声のトーンがグッと下がった。表情は変えないけれど、それはジェシーの中の嫌な感情を呼び起こすのに効果がある事がわかった。