敗北 ページ41
――1年前､8月。
母「凪咲！早くしないと試合始まるよ！」
「はーい！」
甲子園の準々決勝。
これに勝てばベスト4以上が決まる。
毎回欠かさず､応援している鈴華の試合を見れるのも
今日を含めてあと3回か...。
今日も勝ちますように。
『鈴華高校､今日も先発は鈴村投手です。
対する相手は､昨年準優勝校。
強打線と名高い名門校です。
鈴華バッテリーがどのくらいこの打線を押させられるかに勝敗はかかってくるでしょう！』
この夏、
鈴華高校のエースピッチャーは調子が戻らず､
ほとんどの試合での先輩は鈴村智樹先輩だった。
母「この子､本当にすごいわね。
ストレートのスピードがあるから、変化球が活きるって感じ。緩急の付け方が絶妙だわ。
キャッチャーの采配もさすがだけど､
この子のコントロールがあってこそよね。」
...なるほど。お母さん野球詳しいの？
サイレンと共に試合が始まる。
...あ､このルーティン。
私の大好きな一瞬。
第一球目を投げる前､
必ず目を閉じ､天を仰ぐ。
深く息を吐いて､前を見据え勝気な笑顔を浮かべる。
母「そしてこの度胸。
間違いなく､次期エースだわ。」
試合終了のサイレンは､それから約2時間後に響いた。
8対2...鈴華高校の夏は終わった。
母「残念だったね...」
「うん...」
相手校の校歌が終わり､鈴華高校が退場する場面が映しだされる。
みんな目が赤い...。
「.....っ！」
―目深に被った帽子で､
顔を隠しながら歩く智樹の姿。
しかし､頬を伝い､
顎から落ちる涙は隠せていない。
もう二度と､
この人のこんな姿は見たくない。
この時､本気でそう思った。
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作者名：美波 | 作成日時：2020年5月4日 14時
