7話 ページ8
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「大丈夫ですよ。何も心配は要りません。貴女は唯だ、ぼくの隣に居てくれればいい。それだけです。難しいことなどありません。そうしていれば、必ず貴方を彼に──太宰くんに、会わせてあげますから」
優しく諭すように言う彼の言葉は、まるで麻薬の様で。彼の紫の瞳は、魅惑的で。私は無意識のうちに小さく首を縦に振ってしまった。
「ふふ、良い子ですね。Aさん」
彼は満足そうな表情を見せ、ぽんと優しく私の頭を撫でた。その仕草は子供扱いされているようだったが、不思議と嫌ではなかった。寧ろ、心地好いとさえ思った。
「良い子にはご褒美を与えなくてはなりませんね」
ぱちん、と彼が指先を鳴らす音がする。
何処からともなく現れたのは、湯気が立ち上るティーカップと、美味しそうなケーキだった。
「疲れたでしょう?休憩にしましょうか。貴女の為に用意したんです。遠慮せずどうぞ」
『あ、ありがとう、ございます』
急な出来事に戸惑いながらも、私は用意された席に着く。ふわりと香る紅茶の良い匂いに釣られて思わず手を伸ばそうとするが、ある事が頭に過り慌てて手を引っ込めた。
「毒なんて入れていませんよ。云った筈です、ぼくを信じてくださいと。貴女の中に少しでもぼくを疑う気持ちがあるのであれば、彼と再会することは叶わないでしょうね。ぼくは別に其れでも構いませんが」
─────困るのは貴女でしょう?
彼の言葉に背筋が凍る。
あの人に、太宰さんに、もう二度と逢えないかもしれない。そんな絶望的な状況の中で出逢った、ドストエフスキーさんという希望。マフィアに戻ったとしても、マフィアを離れ独りで生きたとしても、彼と再会できるという可能性はほぼ無いに等しいだろう。その可能性を1でも上げられるのであれば____私は、何だってする。
『いただき、ます』
震える手でティーカップを手に取り口元へと運んだ。
一口飲むと、今まで味わってきたどの飲み物よりも美味で、私好みの味がした。
『ん!…美味しい…!』
自然に笑みが零れ、恥ずかしくなって慌てて口を閉ざすが、時既に遅し。彼は嬉しそうに目を細めていた。
「ふふ、矢張り貴女は笑顔が似合います。貴女を苦しめる存在なんて、全て無くなってしまえばいいんです。ぼくが幸せにして差し上げましょう」
彼の指が、壊れ物を扱うかのように優しく私の髪を掬う。
慈しむような視線の裏にはどんな感情が隠されているのか、私には判らなかった。
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めろん(プロフ) - 砂糖やよいさん» 嬉しいお言葉を沢山ありがとうございます;;滅茶苦茶頑張れそうです!思うがままに書いていくと思いますが良ければあたたかく見守ってやってください…! (2023年3月28日 1時) (レス) id: 0291e6dbfe (このIDを非表示/違反報告)
砂糖やよい(プロフ) - すごく素敵です!!!!語彙の豊富さと比喩表現がグサグサ儚くて胸にきました!ドスくんの恋愛観などめちゃめちゃに気になります。更新頑張ってください! (2023年3月27日 1時) (レス) @page6 id: 3762c357ba (このIDを非表示/違反報告)
めろん(プロフ) - Azuki☆さん» 嬉しいコメントありがとうございます!頑張ります🔥 (2023年3月27日 1時) (レス) id: 0291e6dbfe (このIDを非表示/違反報告)
Azuki☆(プロフ) - 続き楽しみにしてます…!更新頑張ってください! (2023年3月26日 21時) (レス) @page4 id: b75300cb40 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:めろん | 作成日時:2023年3月26日 17時