弍拾陸 ページ28
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『うつくし姫』──名をアセロラ・スカーレット。
美しさで命を奪う。其の美しさの威力は、自身を自 殺に追い込む程に強力だ。
俺様は幾度となく、アセロラ姫を食おうと彼奴に襲い掛かった。
其の度俺様は死んだ。
ある時は体が木端微塵になり、ある時は首を斬り、ある時は心臓を抉り取った。
首や心臓は、吸血鬼らしく美味しく頂いたが。
アセロラ姫は云った。『私が美し過ぎるのが悪いのです』と。
端から聞けば酷くナルシシストな台詞だが、其の言葉には自己愛など微塵もなく、只本当に、心から其の事実を嘆いている風だった。
食おうと襲っては死に、襲っては死に、其れを幾度となく繰り返した、彼女と会って、約二週間が経った頃────。
俺様には、唯一の眷族が居た。
名をトロピカレスク・ホームアウェイヴ・ドッグストリングス。
嫌に俺様を慕う、忠実な部下でも有った吸血鬼だった。
そう、
トロピカレスクは、死んだのだ。
『うつくし姫』を──殺そうとして。
嫌な、確実と云っても良い予感がして、アセロラ姫の部屋に飛び込んだ。
視界を埋め尽くす、赤、紅、緋。
トロピカレスクは、俺様が一番始めにそう為った様に、木端微塵になっていた。
『...クレセント。』
アセロラ姫が呆然としたまま云った。
『この方も、生き返るのですよね？貴方と同じ様に、直ぐに──。』
「いいや。」
俺様は首を振った。
「トロピカレスクは、吸血鬼としては未だ半人前だ。俺様程の不死力は無い。生き返らない。」
『......出て行きます。』
アセロラ姫は、淡々と云った。
今まで何度も、そうしようとして居たのを俺様が制した。行くな、まぁ待て、と。
だけれど今となっては、何がとは云わないが、もう、遅い。
だから、俺様は云った。
「分かった。好きにしろ。だが、未だ動くな。大切な
無駄死にはさせない。
俺様は散らばった欠片に手を伸ばした。
噛む。咀嚼する。飲み込む。吸う。
数週間振りの食事だった。血も肉も其れなりに旨かったし、何より特別な味がした。
アセロラ姫は俺様の其れを、決して美しいものではないだろうが、じっと見続けていた。
最後に、心臓を林檎の様にがぶりと噛み付いて、飲み込んだ。
するとアセロラ姫は、唐突に云ったのだった。
『クレセント。私を、吸血鬼にして下さい。』
続く
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作者名：妃薫。 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nakaharaty1/
作成日時：2018年3月12日 1時
