壱拾肆 ページ16
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鴎外「それじゃあ──此れ迄通り、居てくれるのだね?」
森鴎外は目の前に立つ妃薫を見据え、云った。
『ええ。物は試しと云いますし、暫くは此処に居させて貰う心算です』
鴎外「そうか。其れは良かった」
森は心底安心した様に眉間を抑え、苦笑した。
首領執務室を出た妃薫は、隣を歩く中原に目を向け、云う。
『ねぇ、如何して貴方が救けに来たの?と云うか如何して、私の居場所が判ったの?』
中原「如何して、って云われてもなァ……手前を探してて、そしたら丁度其処迄離れて居ない処に手前が落ちて来たから、だな」
『何それ。全然ロマンチックじゃあ無いわね』
中原「現実なんてそんなモンだろ」
『......そうね。確かに』
妃薫は笑った。中原も其れを見て笑った。
其れからは、目まぐるしい程に忙しい日々が続いた。
人虎の捕獲命令、組合の到来、探偵社との一時的な休戦、そして共闘。然しポートマフィアは妃薫の目覚ましい活躍もあり、被害を最小限にまで抑える事が出来た。
一時は失踪や自 殺迄もを心配されていた妃薫だったが、彼女は何時だって、マフィアの仲間達と共に居た。良く笑う様に為った。其れは彼女にとって、大きな進歩と云えるだろう。
けれど、幸せはそう長くは続かない。
彼女は其れを知っていた。現実を知っていた。
だからこそ。
もう少し、もう少し、後少しだけ、もう少しだけ。
そう願い、仲間達と居続けた。
そして──物語は転機を迎える。
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「日の本の国か──懐かしいなァ」
男は、ビルチングの屋上に佇み、眼下の街を眺めていた。
黒いパーカー、黒いズボン、黒い靴。闇夜を思わせる服装とは相反して、風に靡く頭髪と輝く瞳は、眩しい程の金色だった。
愉しそうに上げられた口角。其の僅かな隙間から覗くのは、白く尖った歯。
男は、クレセントと云った。
妃薫を“鬼”へと変えた、齢600の吸血鬼である。
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作者名:妃薫。 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nakaharaty1/
作成日時:2018年3月12日 1時