『何でも屋の宵』 (ページ2)

今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:2,089 hit

弍何でも屋の宵ページ2

夕「ほれ、また依頼が来たぞ。
『何でも屋の宵』は相も変わらずの人気だな」

そう言って『何でも屋の宵』への依頼の概要が書かれた紙を投げて寄越す。

あくびをしながら片手で受け取ったところを見ると、どうやら宵丸はかなり反射神経が良いらしい。

宵「お前のおかげだよ。
夕霧がいなきゃ俺の商売は成り立ってない」

そう、宵丸は人前には出ない。

その方が『何でも屋』として都合が良いからだ。

その代わり、普段は別の人間のフリをして生活している。

では、依頼は誰が取り付けるのか？

正解は夕霧だ。

花魁の元には様々な客がやって来るため、客の中に『何でも屋の宵』の知り合いがいる、とでも言っておけば、それで誤魔化せるのだ。

そして依頼内容を紙にまとめ、客として訪れた宵丸に渡す。

つまり2人はビジネスパートナーなのだ。

夕「今回は、見世物小屋の踊子の小娘から『代わりに踊ってくれ』って」

宵「はぁ？」

夕霧が内容を要約して話すが、訳しすぎて意味が分からない。

夕「その小娘が足折って踊れなくなったから、代わりに見世に出て踊ってくれって」

よし、今度は理解出来た。

出来たのだが、、、

宵「、、、え、本当に？」

夕「ああ、本当に」

宵「冗談じゃなくてか？」

夕「何でこのタイミングで冗談言うと思った？」

宵「そーだよなぁ、、、」

深い溜息を吐く宵丸を訝しげに見る夕霧。

夕「踊りは苦手か？」

宵「いやぁ、別に苦手なことは何1つないんだが」

夕「それはそれでムカつく」

素直過ぎる宵丸の言葉に、すかさずツッコむ夕霧。

夕霧のツッコミは刀の様に鋭く、大抵の者は心が折れる。

そんなツッコミにも動じずに考え込んでいた宵丸が顔を上げ、辟易とした様子で呟く。

宵「踊子の代役って、女装しなきゃいけないだろ、、、？」

数秒間の沈黙の後。

夕「、、、ああ、なるほど」

夕霧は、憐れみを滲ませた声で相槌を打った。

見世物小屋の踊子というのは、美しい娘が華麗に舞うから面白いのだ。

19の野郎が舞っても面白くない。

宵丸の顔は中性的な美しさを持っているので、女装はむしろ得意なはずなのだが。

夕「うん、そうだな。
まぁ、何と言うか、、、頑張れ」

宵「お、おい！
俺を見捨てるなよ！」

夕「見捨てるなと言われてもな。
私に出来ることは何もないし」

何て薄情なんだ、と口を尖らせる宵丸。

そう、決して不可能な訳ではない。

ただ女装が嫌なだけなのだ。