検索窓
今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:2,091 hit

参 変装 ページ3

夕「しかしだな、宵丸。
これは、すでにお前に依頼された話だ。
いくら女装が嫌だと言っても、もう断ることは出来んぞ」


宵「っっっっくっそー!!!!」


夕霧の言葉に、地団駄を踏んで悔しがる宵丸。


夕霧は「我関せず」を顔面に貼り付けたような顔で宵丸を見やる。


夕霧の仕事はあくまで「依頼の取り付け」だけ。


その依頼の内容など、夕霧の知ったことではないのだ。


興味ゼロの夕霧を恨めしそうに睨む宵丸。


宵「お前は良いよなぁ、気楽で。
座敷の奥で男どもと喋ってるだけなんだからさ」


夕霧は、うだうだと愚痴を垂れる宵丸の口に人差し指をそっと当て、黙らせる。


そして悪い顔で笑って言った。


夕「宵丸、花魁をあまり舐めてくれるなよ」


夕霧のこんな表情を見られるのは、事情を知っている宵丸とお朱鷺の2人だけだ。


そもそも花魁の美しい指を唇に当てて貰えるなんて、並みの客では有り得ないのだが。


宵「出たよ、花魁の男を落とす技。
そんなの、俺には効かないからね」


どこ吹く風、宵丸は平然としている。


どうやらこの2人、一緒にいる期間が長すぎて、距離感が掴めなくなっているらしい。


お互いにそれで困ったことはないから、別に構わないのだろうが。


夕「さぁて宵丸、そろそろ腹を括れ。
そして早く依頼人の元へ行け」


宵「えぇいもう、どうとでもなれ!」


自暴自棄になりかける宵丸に、夕霧が紺色の羽織と金縁の眼鏡を渡す。


今の宵丸は、側から見れば超イケメンの若旦那『石花海 凛之助』だ。


『凛之助』のまま華雨楼を出るのは、流石に目立ちすぎる。


何故なら『凛之助』は、花街の女ならば知らない者はいないと言われるほどの人気者だからだ。


羽織と眼鏡だけでもだいぶ印象は変わる。


別人のふりをするには十分だろう。


夕「宵丸、その耳飾りも目立つぞ」


宵「ああ、そうだね。
こちらへ向かってくる足音が2つほど。
そろそろ『凛之助』と『花魁』に戻った方が良いかな」


夕「あい、分かった」


夕霧に指摘された、大きな白い花を模した耳飾りを外しながら話す。


そして代わりに、硝子で出来た雫の形の耳飾りを着ける。


これで変装は完了した。


あとは翌朝になったら「凛之助様はお帰りになった」と夕霧が嘘を吐くだけだ。


それで、凛之助は夕霧花魁と一夜を共にしたのだと、他の人間は信じて疑わないだろう。


部屋の外に聞こえぬよう、小声で話す。


宵「行ってくる」


夕「気張れよ」

肆 見世→←弍 何でも屋の宵



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (9 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
4人がお気に入り
設定タグ:江戸時代 , 花魁 , 何でも屋 , オリジナル作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:水街 | 作成日時:2020年7月5日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。