愛されたい気持ちは知っている

彼の過去 ページ16

「実はよ、俺、小さい頃から一人ぼっちだったんだ。」

え……？

予想もしなかった言葉に、私は固まる。



一人ぼっち？どういうこと？



彼は天井を見上げる。

「母さんが早くに亡くなったんだ。
　父さんも同じ。
　
　保護施設で過ごしてたけど、自分が家族居ないことに怒りを持ってたんだ。

　どうして、自分だけこんなに不幸なんだって。


　そのせいで、捻くれ者になっちまって、友達もまともに出来なかった。
　そのまま時は過ぎ、俺はこうやって、お前みたいなやつを誘拐し、お金を盗んでた。

　犯罪って分かってても、止められなかった。
　それに、金をもらったら、ちゃんと子供も返したしな。

　
　俺、結構頭がきれるんだぜ？
　だから、今まで警察にもバレずやってこれた。


　でも、なんでだろうな。
　お前の前だと、つい顔を見せちまった。
　顔を見せないために、面をつけてったっつうのに。」


彼は面を持って、私に笑いかけた。



なんか……悪いことを聞いちゃったな。

きっと辛かっただろうに……。




でも、疑問だった。

だって、彼の過去について分かっても、私が頑張ってきたという理由にはならないもの。




だから、私は、なぜ私が頑張ってきたことを知っているのか、聞いてみる。

すると、彼はふっと甘く笑い、自分の胸に私を引っ張った。


「俺、分かるんだ。
　自分が辛かった分、相手がどれだけ辛かったか。
　当たる保証とかはねぇが、自信はある。

　お前、今まで辛かっただろ？
　我慢すんなよ。」


彼の優しい言葉が、私を包み込む。


なんて、温かいのだろう。

なんて、柔らかいのだろう。




私は、彼に引っ張られるままに、彼の胸に顔をうめた。

そして、今にも涙があふれそうになる中、話した。

「辛かった。
　ただ、愛されたかっただけなのに、
　こんなに胸が痛むなんて知らなくて、泣きたいのに泣けなかった。
　
　誰にも愛されないゆえに、私は自分が分からなくなった。


　どうしたら良かったのかすら、分からない。」

話している途中、私はすでに泣いていた。



こんなことで泣くはずじゃなかったのに。

こんなことで涙を流すつもりはなかったのに。




彼の胸、いや心が温かかったから、甘えて泣いてしまう。


私は彼の服が濡れると申し訳ないので、すぐに顔をどけようとした。

でも、彼は私の後頭部を手で優しく押さえて言う。


「泣けよ。」


あぁ、優しすぎるよ。

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