僕っ子アーヤは知っている

母の無関心 ページ12

僕は家に着くなり、静かに扉を押した。




母に迷惑をかけないように。

うるさくしたら、母がヒステリックに怒る時があるんだ。


僕はリビングに行き、ドラマを見ている母を見つける。


そして、手元にある特別教室の申し込み書を見た。



今は……声をかけない方が良いよね。

ドラマが終わるまで待っていよう。


あくまで、母を困らせないようにね。





僕は忍足で階段を上り、自分の部屋の扉を押した。




僕の部屋は男子のくせに、女の子らしい物ばかりが置いてある。

全部妹の奈子の物なんだ。




僕は物は極力置きたくなくて、質素が良い。



でも、奈子の物が自然と溢れ返ったんだ。

僕の領域まで奈子の物がたくさん。





それで奈子が助かってるなら良いんだけどね。




それに、勉強する机さえあれば構わない。


地べたでも寝ようと思えば寝れる。





少しでも母に認められる人間になれるように、僕は勉強をするんだ。




母が僕の完璧を望んでいないことは知っているよ。


でも、僕にはこれくらいしか出来ない。




きっと、いつかは母も僕の努力を認めてくれる。


そう信じているから、頑張るんだ。






目が熱くなり、瞬きと同時に雫が落ちた。



……駄目だなぁ、こんなことくらいで泣くなんて。

僕は相変わらず弱虫だ。





大丈夫、母はきっと、僕をどこかで見守ってくれているから。






そうじゃないと、僕の存在の意味がなくなる。


存在価値がなくなってしまう。





僕は母を信じることしか出来ないや。




心の重りを抱えながら、机に座った。


リュックから教科書とノートと筆記用具を出して、深呼吸する。






「今日も頑張れ、僕。」

自分自身を静かに応援して、シャーペンを走らせた。





……いつまで続ければ、母は僕を見てくれる？





＊





あれから何時間か経ち、外はもう真っ暗だった。




流石に、ドラマはもう終わってるよね。



僕は特別教室の申し込み書とシャーペンを持って、階段を降りた。


そして、リビングに一歩入ろうとした時だった。




「彩斗は駄目ね。
　裕樹や奈子と違って、出来損ないだわ。

　どうして、あんな子、生んでしまったのかしら。


　早く自立してほしいものだわ。」


それは確かに母の声。




僕は体が岩にように固まって、シャーペンを手から滑り落とす。



落ちる音が響いて、母がこちらを向いた。

「あら、彩斗、居たのね。」





僕は……どう頑張っても駄目なの？

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