Flügel der Freiheit (最終回ネタバレ注意) ページ49
隙間風が私の髪を揺らした。
今はもうこの世界にはいないエレンの起こした大事件、あの日から約3年。私は今となっては懐かしい兵服を手に、辛くも楽しかったあの日々を思い返していた。
コン、コンと控えめなノックがされ、入室を承諾する言葉を携えながら振り返る。
「A、準備できたか?......何だよ、随分懐かしい物持ってるな」
私の回想の中の彼よりも長く伸びた髪を綺麗にセットして部屋に入ってきたのは、私の愛しい人。普段はあまり身に着けることのない礼服をきちんと着こなし、私の手にある兵服を少し困ったように見つめた。
「ジャン......何だか緊張しちゃって。久々に思い出してたの、昔のこと」
今日はパラディ島、もとい私たちの生まれ故郷へと帰る日。
...帰ると言っても歓迎されないのは分かりきっているが。
ミカサやヒストリア、そしてエレンの待つあの場所へこれから赴くのだと思うとどうしても落ち着かず、無意識のうちに戸棚の奥深くに眠っていた深緑のジャケットを手に掴んでいたのだ。
「まあ、気持ちは分からんでもないぜ」
自嘲気味に笑いながら私の隣に立った彼は、訓練兵の時よりもぐんと背が伸びて。兵服に手を伸ばすその薬指には私とお揃いの指輪が光っている。ジャケットの胸に象られた自由の翼のエンブレムは未だにそこで羽を広げていて、ふと、エルヴィン団長......いや、元団長を筆頭にした調査兵団の面々が脳裏に浮かんだ。
胸が小さく痛み、会いたいなあ、なんて思いながら時刻を見れば、集合時刻より一刻程前で。私たちの住む家から港までは時間がかかる。
最後に鏡の前で身なりを確認し、ジャンの腕をとった。
「行こう」
...
波が砂浜に打ち上げられる音が辺りを包み込んでいた。
「A、ジャン。久しぶりだね。」
そう言って優しく微笑むアルミンの表情は、かつてからは考えられないほど凛々しく大人びていた。後ろに続く同胞の姿に思わず涙腺が緩む。
あの日常から数年は、辛い日々だった。多くの仲間を失い、絶望の中で喘いでいた。
そして、私達がこれから挑む世界の人々は未だ、絶望の中にいる。まだ戦いは終わらない。
「......お前ら」
ふと背中にかかった懐かしい声に驚いて振り返れば、そこには車椅子に座ったリヴァイ兵長がいた。彼の鋭い視線が未だ健在なことが恐ろしく、そしてどこか嬉しくなる。
「.....生きて帰ってこい。これは命令だ。」
私達の真上で、一羽のカモメが、鳴き声を上げた。
Danke schön.
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ぐりーん(プロフ) - 感慨深いですね…主様の小説惚れ込んでしまいました (2023年3月4日 2時) (レス) @page48 id: deeadad018 (このIDを非表示/違反報告)
yu - 梦雨さん» idは異なってますが、作者のyuと申します!感想いただけて嬉しいです。ありがとうございます。8年前書いてた私も喜んでると思います。笑笑 これからも進撃の巨人を愛していきましょうね! (2021年4月12日 22時) (レス) id: 05cea5771c (このIDを非表示/違反報告)
梦雨 - 初コメ失礼します。更新お疲れ様でした…!!ついさっきこのシリーズを読み始めたのですが、面白くてあっという間に読み終わってしまいました!とても面白くて感動するお話でした…!素敵なお話をありがとうございました;;本当にお疲れ様でした!! (2021年4月12日 21時) (レス) id: 508416840e (このIDを非表示/違反報告)
yu - あいあいさん» うおおおお?!死なないでください!? (2014年7月3日 20時) (レス) id: ef5ac8aecf (このIDを非表示/違反報告)
あいあい - いっかい死んでくる☆ (2014年7月3日 19時) (レス) id: 264268f028 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:yu | 作成日時:2013年11月2日 8時