《俺》は俺しかいない。【ジュリウス】 ページ1
プログラムとして形成された《自分》は追憶というとてもおぼろなものだった。
もちろんオリジナルではない。立派な複製だ。
しかし、目の前にいた少女は涙を浮かべて首に抱きついている。
爪先で立っているが、こちらの首にはなんの負担もない。
この少女は無理をしているのか、わからない。
『会いたかったです、ジュリウス』
きっと少女は《自分》がオリジナルではないことに気付いている。
なのに、《自分》を《ジュリウス》と呼んでくれている。
このような場合、オリジナルならばなんと声を掛けるのか。
最も少女の心を傷付けず、安心させる言葉。
「悪かった、寂しい思いをさせてしまったな。」
これに対し、少女はいいんです、と許す。
この時の思考回路はエラー同然だった。何に対してのいいんです、か理解できない。
この少女には何かある。それに加えてオリジナルもこの少女に何か思いを寄せていた。
データには恋人とある。
追憶というコピーにもその感情は複製されていたようで、同じように少女を抱き締めた。
____オリジナルはいつもこんなに幸せなのか。
勝手に思っていると、重い視線を察知した。
発しているのはオリジナルより年上のギルバートと、シエル、だったか。
それから螺旋の木からも何か感じる。
聖域というには抵抗のある禍々しさ。一体何に向けているのかわからない。
視線を少女に戻す。涙で赤くなった目元、安心しきった幼い表情、少し揺れる髪。
きりがない。
続いて庭園の窓から見える螺旋の木を見上げる。
ようやく不吉な視線を送られている対象が判明した。
《自分》か。
____いますぐAから離れろ、紛い物。
その紛い物は本来あるはずのない感情を以て言い返す。
____俺になってみたいだろう。
調子に乗ったのが悪かった。
大きな地震と間違えるほどの揺れが来たかと思えば窓ガラスが高い音を発てて割れる。
外から障気のようなのが入り込み、様々な音が悲鳴と共に拡大する。
少女は特別な感情を持った《自分》に抱き付いた。
ガラスは細かい破片になって《自分》に集中する。頬を掠り首を傷つける。
ここで恐怖を学習した。
すると少女は自分の前に立って、ガラスを受け止める。
それが彼女の頬を掠り赤いものを出したとき、ガラスは死んだように地へ落ちた。
ただ螺旋の木からの圧力は変わらない、
_____ジュリウス·ヴィスコンティは俺だけだ。
最後にそう聞こえた。
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ルーネスガルディン - 死神のシャルロットだ。、、、此処は? (2016年6月13日 12時) (レス) id: e3be47b955 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白い屈み | 作成日時:2015年8月18日 15時