つまらない女。【日々樹渉】

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｢先輩！先程の演技、とても素敵でした！｣

｢またご指導ご鞭撻のほどを、｣

｢次の公演のご予定は？｣


公演が終われば、直ぐに私の周りには人が増える。疲れているのにも関わらず、容赦なく話しかける観客共。ずきりと腹部が痛んで汗が一つ零れ落ちたが、ニコリと口を開く。私は、あのAは汗なんて拭わない。


｢どうもありがとう。まだ次の公演は決めていないけど、近日中にはまた出演するわ。是非見に来てちょうだい｣


そう言って花束を受け取れば、興奮したように黄色い悲鳴をあげる女子に、もう満足したのか離れていく観客。これだから嫌なのだ、ミーハーは。

好みじゃない真っ赤な花束の数々。
赤い衣装を着ているうちに、いつの間にか私への花束は赤へと統一されていた。きつい花の匂いにまた少し、腹部がじんわりと痛くなる。この花、ごみ箱行きだな。


時にここ、夢ノ咲学院には色々な学科がある。芸能向きの学科が殆どで、私の通っている学科はそのうちの『演劇科』だ。少し前は学院全体が堕落していたが、数多くの俳優達を輩出している。

演劇科は学園一有名な『アイドル科』と少し似ている部分があり、特に演劇科で開かれる講堂の公演は最低でもに週に4回。プロの劇団のように百合組、椿組など計四つの組で分かれており、3年間を過ごす。組ごとに劇でどの役に付けるかは成基本的にはオーディション。実力主義の体制だ。

そんな学園で一番の人気を誇る薔薇組のトップにして、入学当初から主役を勝ち取り続けてるのが、この私。
薔薇組トップの証である真っ赤なブローチは、好みではないがいいセンスをしている。更衣室で制服に着替え、首元に着ける。

鏡で身だしなみを整えて、これで完璧。いくつか演劇の表情を試して、部屋から出ようとドアノブに手を掛ける。



『相変わらずつまらないですねぇ、私だったら耐えられません！』



ギリ。今日一番の腹部への痛み。
錆びたナイフが、男にしては高い声によって捩じられる感覚。


今発せられた声の招待は｢日々樹渉｣。


彼こそが忌まわしき相手であり、そして悩みの種。
ほんの数日前。家に帰ると、ふよふよと浮くお化けのような彼が見えるようになった。幻覚の1種だろう、多分私以外には見えていない。

最近はあまり見なかった…見ないようにしていた彼が非常に鬱陶しい。透き通った声を聞きたくなくて、耳を塞いで早歩きで歩く。


『無視ですか、相変わらず安直でつまらない！』

｢…何の話？｣

『ふふ、相変わらずこの言葉に貴方は弱いですね』


そう言った彼に反論しようとしても、彼はもう消えていた。

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