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うるさいよ、と注意された。でも口調は明るく笑顔のまま言われた。
「だからたーくんって呼ばれた時焦ったよ」
「それは大変失礼しました……」
こんな偶然ってあるのだろうか。普通の人なら絶対に河村さんを模写していると私の言い分を完全否定するはずなのに流石は東大生。私の今までの反応や状況から信ぴょう性があると思ってくれている。どこまでも完璧な人だ。
「別に面白かったからいいよ全然」
「そうですか……」
少し怖いが怒っていないらしいので一先ず安心。でもこれからは妄想するのを辞めよう…。
「それにしても、絵が上手いね」
「あ…ありがとうございます……」
「僕に似てる云々は置いといて、表情とか仕草とかがリアルだ」
「完全に趣味ですよ…」
頼む、その顔で褒めないでくれ。私は妄想でしか慣れていないんだ。全く免疫がないのでどうしたらいいのか分からない。そもそも、絵自体褒められるのが久しぶりだから…。
「そういえば君の名前は?」
「…AAです」
「Aさん」
待って、河村さんに名前呼ばれた。これが推しにラジオで名前を呼ばれたとかそういう感じなのか?だとしたら最高すぎる。録音して毎日聞きたいぐらい。
「Aさんは絵が好きで今日来たの?」
私が河村さんの言動にドキドキしていることなんて知らずにテンポよく話しかけてくる。
「それもあるんですけど、友人の作品が展示されていたので」
「え、なんてやつ?」
頑張って受け答えしてる私もなかなかでしょう。自分で偉いぞ、と士気を高めながら河村さんが開いていたミニパンフレットの右下を指さした。
「…志賀玲太」
「はい、彼からチケットを貰って」
私は現役で受からなかったら諦めると決めていた。見事に落ちた私は滑り止めとして受けていた普通の大学に通っている。落ちた私と受かった志賀くんとじゃ雲泥の差なのに、彼は変わらず私と接してくれた。だから私も絵を嫌いにならずに済んだ。
志賀くんの名を呟いた後急にテーブルの上を片付け始めてメニューを手に取った。
「なんか食べない?」
「え?」
どういう風の吹き回しなのか。警戒する私にニヤリと笑って思いもよらない爆弾を落とされた。
「昨日、レポート頑張って終わらせたんだろ?今日は俺が奢ってやるって」
「ひ、ひぇ………!」
昨日描いたページをしっかりと覚えていて、しかもそれをアレンジして再現してくれるとかもうこれだけで私お腹いっぱいなんですけど。
ここは本当に現実世界なのか。ノートの中の世界に迷い込んでいるとしか思えなかった。
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緋歌梨(プロフ) - ちゃるちゃるさん» いえいえ! (2020年12月30日 22時) (レス) id: ef32365840 (このIDを非表示/違反報告)
ちゃるちゃる(プロフ) - 緋歌梨さん» そうなんですね!知らなかったです。教えて下さりありがとうございます! (2020年12月30日 22時) (レス) id: 6736db345f (このIDを非表示/違反報告)
緋歌梨(プロフ) - コメント失礼します!みかんの白い筋は、アルベドって言うんですよ!ラテン語で“白さ”という意味です!このコメントはスルーしていただいても構いません。お節介ですいません… (2020年12月29日 20時) (レス) id: ef32365840 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちゃるちゃる | 作者ホームページ:
作成日時:2020年11月9日 17時