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「おぉー!伊沢ー!遅いぞ!」
カフェに入ってきたのは、伊沢さんと呼ばれた人だった。
すいません、と言いながら少し後ろのほうの席に座る伊沢さん。
『…っ』
それはそれは、一目惚れだった。
新曲のためにチューニングをしていた手が震え始めた。
これは、やばい。予定を変更しよう。
「ちょうど良かったよ、あと一曲だけ今からやってくれるから」
「いやー何とか間に合ってよかったです!」
なんで私の話をしているの!?どういう風にこのカフェを紹介したの!?
動揺している私の気なんか知らずにニコニコしながらこっちを見てくる伊沢さん。
落ち着け、自分…。いつも通りのアンコール曲なら行けるだろう。とてもじゃないが新曲というハードルが高いものは無理だ。
ふぅ、と呼吸を整えてマイクに手をやる。
『アンコールありがとうございます。それでは、最後の曲です』
よっ!がんばれ!などの温かい野次に包まれて、ピックをぐっと持った。
いつもとかなり違う日常が舞い降りて、それはそれは大変だった。
気づいたら拍手の嵐になっていて、ああ私は無事に弾き終えたのかと我に返った。
「お疲れ、Aちゃん」
私のミニライブでボルテージが上がったお客さんたちは、閉店までいてくれて、また来るねと声をかけてくれながら帰っていった。
さっきとは打って変わって静かな店内で、私の大好きなココアを入れてくれた店長。
カウンターに座って周りを見渡しながらココアを飲む。
あ、この席…
結局、一目惚れをしてしまった伊沢さんとは何の進展もなく。そりゃそうだよねぇ。
話がとても上手い人で、彼の周りにはたくさんの人がいてとても入っていける隙はなかった。
また、来てくれたらいいな。
『あ、私弦張り替えたいのでクローズ作業しておきますね』
この店内にはとてもギターが似合う。上機嫌で弦を張り替えてペグをつまんだ。
夜だから音にはとても気を付けながらギターをかき鳴らす。
チューニングは本来、専用の機械を使えばあっという間に出来るのだけれど、私には拘りがあって、音叉を使って自分の耳でチューニングをしている。
手間がかかる分、ピタッと来た時の嬉しさが半端ない。
私の恋ってまさにチューニングじゃん。
ははっと一人で笑っていたら、閉店にしていたはずのドアがカランと開いた。
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あやか(プロフ) - 初コメ失礼します。トクベツといい、身長差のない恋人といい、自分の推しの話が自担グループである嵐の曲でとてもテンションが上がりました!話も面白いですので、読んでいて楽しいです! (2021年2月17日 0時) (レス) id: 9ed625666a (このIDを非表示/違反報告)
ちゃるちゃる(プロフ) - 月夜星さん» ありがとうございます!曲の良さを消してしまわないように気を付けながら書いておりますので、そう言ってくださると嬉しいです! (2020年4月22日 17時) (レス) id: d523c3bebb (このIDを非表示/違反報告)
月夜星(プロフ) - こんにちは!青空が違う!!めっちゃ好きな曲で、好きなQ.K.さんたちのお話で!めっちゃ楽しいです!これからも頑張ってください! (2020年4月21日 16時) (レス) id: 5e0ae6c178 (このIDを非表示/違反報告)
ちゃるちゃる(プロフ) - 望さん» そうです!好きな人たちのコラボって嬉しいですよね。つい勝手に作ってしまいました!笑 (2020年4月17日 22時) (レス) id: d523c3bebb (このIDを非表示/違反報告)
望 - これ欅坂や日向坂の曲ですよね?好きな人が好きな曲で…読んでいて楽しいです^^* (2020年4月16日 8時) (レス) id: 2bba6c15ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちゃるちゃる | 作者ホームページ:
作成日時:2019年9月8日 14時