204.王と庭師 ページ38
「最も美しい薔薇園」という題で選出された5つの園がある。
国名の通りの名産地である薔薇の王国の庭園が4つ。
残る1枠を勝ち取ったのは、鷲の谷王宮の薔薇園だった。
張られた結界で花に悪影響なものから守られつつも外と見分けがつかないほど類似した景色に、完璧な温度管理と徹底的な害虫駆除が為された正に桃源郷の如く美しい庭。
大小濃淡様々な薔薇が芳醇な香りを漂わせ、観光に来る人々全てを魅了する。
「...もうすぐ薔薇が散りますよ、陛下。」
園に点在している白に塗られた金属製ベンチの1つに腰掛け、いつもならピョコンと元気よく跳ねさせている犬耳は垂れ下がっていた。
土と水、そして薔薇から移った甘い香りを漂わせ、頬には汗を拭ったときについた泥が張りついている。
それから底の分厚い長靴と木綿の動きやすい服、腰に提げられた枝切りバサミ。
彼はこの美しい薔薇園の管理を委ねられている獣人の庭師である。
黄土色の短髪を乱暴に掻いて、大きなため息をついた。
庭師とアルタイルとの出会いは12年前。
＿＿ヴェーガを避けて自室に籠り、幼さに似合わぬ深い自己嫌悪に病んでいた時のこと。
跡取りの第1王子が塞ぎこむのを見かねた前王は、使われずに雑草の生い茂っていた中庭の一角に薔薇園を造らせたのだ。
庭仕事のできる者を雇い、アルタイルの有り余る魔力を結界に用いた。
この判断は実に賢明であった。
アルタイルの性格が陰鬱に傾くのは、身に余る魔力が精神を蝕んでいるからだ。
結界は魔力を注いで練り上げるだけで、酷い下手をしない限り「内を外から守る」という''良いこと''にしか転がらない。
忌々しい己の魔力を''良いこと''に使え、なおかつ精神を比較的安定させられるのだ。
初めてアルタイルと顔を合わせたとき、何も知らない愚かな庭師は、お近づきの印として赤い薔薇に特別な魔法を掛けてプレゼントした。
「王子様、この薔薇はあなたが''真実の愛''をお知りになって末永く生きる限り、永遠に咲き続けます。」
庭師は知らなかったのだ。
幼い王子は''末永く''生きることなどできないなんて。
物語にある、「真実の愛で結ばれてめでたしめでたし」を身近に感じられるから、プレゼントに喜ばれなかったことなどなかったのに。
渡したときにあんなに形容しがたい顔をした理由が、今になってやっと知らされたのだ。
「...どうか幸せになってください、陛下。皆思っていますよ。」
王は彼への沢山の愛を知らない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2241人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ツイステ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
猫やぎのサブ(プロフ) - コメント失礼します！陽炎さんの作品とっても大好きです！アルタイル様のイメソン‥「1000年生きてる」如何でしょう、、 (1月7日 11時) (
レス) id: 497823dae0 (このIDを非表示/違反報告)
シキ(プロフ) - もうコメントするの遅すぎたと思いますが…｢The Beast｣いいと思います！！ (2023年1月16日 22時) (レス) @page29 id: f878b3efd0 (このIDを非表示/違反報告)
あなたの心にAmazing - アルタイル様は...私的にピッタリだなぁって思ったのが、まふまふさんの「空腹」です。胃というところで共通点があるのと、歌詞にも「愛を知らない」、「化け物」というワードが出てきたり...他にもアルタイル様と重なる歌詞がたくさんです。いい曲ですよ！ (2022年12月24日 22時) (レス) @page29 id: 4aeec97b35 (このIDを非表示/違反報告)
スミィス - アルタイル様は「オレンジ」って曲、どうでしょうか…大好きです！！ (2022年11月9日 18時) (レス) id: f06ecf8049 (このIDを非表示/違反報告)
莉緒(プロフ) - 初コメ失礼します！！アルタイル様ガチ勢です！！アルタイル君世界で一番愛してる自信あります！！アルタイル様のイメソンで、まふまふ様の「廃墟の国のアリス」とかはどうでしょう､､､？ (2022年9月18日 19時) (レス) @page29 id: f2671d43ca (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：陽炎 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Kagerouhp/
作成日時：2022年2月10日 22時
