二、マヤカシ ページ8
我がミクリ忍軍の長になり君主の懐刀となる、我が積年の夢を果たしていないというのに。胸に残るやりきれない思いが拳を握らせる。
道半ば果てる、それだけは避けたかった。某は藁にもすがる一心で正座し、己も驚くほどの威勢で頭を下げた。
「護衛、見張り番、窃取に暗殺、命とあらば何でも致す。どうか某をここで雇って下さらぬか」
「えっ!? ……ちょっと待って下さいね、理解が追い付いていないので」
誠心誠意の懇願にディア殿は困惑されたようで、一旦某に背を向けて何かぶつぶつと呟いておられた。
「修羅の世界の方……?」
「治安悪すぎだろ……」
某を遠巻きにあれこれと話す様子を見て、手応えどころか疎外感を覚え、某は涙を飲む。これは確実に疑われている。刺すような視線を受け、居心地の悪さに俯いた。するとそこに、
「待って! その人、きっと魔力を持ってるよ」
「あっオルト……!」
まるでアヤカシのようにふよふよと地面から浮いた少年が、ディア殿の元へ寄って来た。その人、と言って我が身を指差す。
そこはかとない鋼鉄感に某は目を疑ったが、今はそれどころではない。少年の言葉の、魔力、とは。
訊ねれば「魔法を使うための潜在的な能力だよ」と可愛らしい声で説明して下さった。
つまり某もあのマヤカシ、否、魔法とやらを使えるというのであろうか。一閃の希望の光が輝く。
「そう! 僕の魔力感知レーダーが反応したんだ。あっ、このレーダーは兄さんが搭載してくれたんだよ。あっちに隠れてるのが、僕の兄さん!」
視線を移すと、兄と紹介された人はすぐに木の影に隠れてしまった。
「あのネクラ野郎はどうだって良いんだが、こいつが魔力を持ってるって本当か? 俺の魔法に驚いてたみたいだが……」
「今まで魔法を知らなかっただけで、使える可能性はあるということ?」
「そうだと思う!」
少年の言葉に、半獣人の御仁と美麗な御仁が問う。
力強い頷きを見て、橙色の髪の方が某に棒を差し出した。
「じゃあ早速試してみよ! オレのマジカルペン、貸してあげるね」
「かたじけない……」
おずおずと受け取ったものの某はこの棒の使い方も知らず、魔法の勝手も分からない。戸惑うばかりであった。
「そ、その……魔法、とは?」
「えー何て言えば良いのかな。そういえばオレ、普段どうやって魔法使ってんの? 改めて説明するとなると難しい〜」
「当たり前のように使ってるからな……」
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IDee(プロフ) - 五月雨さん» コメントありがとうございます! 最近は更新を滞らせていたのですが、大変励みになりました。時間を見つけ次第更新していきたいと思います〜! (5月24日 21時) (レス) id: af1699faf6 (このIDを非表示/違反報告)
五月雨 - 面白い!!更新楽しみにしてます!! (5月24日 19時) (レス) @page24 id: 301607acc2 (このIDを非表示/違反報告)
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