第25話 ページ29
うーん、彼への愛を感じる。
一通りからかい終わった彼女は、場に似合わない呑気な事を考える。
でもね、私も彼等の事が大切なんだ。だからさ？
にっこり笑って口を開く。
笑顔は崩さずに、端的に要件を述べる事。これが交渉の基本だ。
「ねぇ、もう一度だけ言うよ？…邪魔をするな。」
有無を言わせないような、敵意を隠そうともしない威圧的な言葉。それに足がすくみそうになった樋口だが、尊敬している先輩をちらりと見やってから無言で彼女の足元に威嚇射撃をした。
銃のめり込んだ地面を踏み付けてからAはにんまりと笑う。
「おっと、随分と好戦的じゃないか。君も、彼も。」
うわあああああ、という叫び声と共に敦君が芥川へと走り寄る。攻撃を避けてから、足元の銃を拾い、乱射。
勿論攻撃は、届かない。
…中々見所のある新人じゃないか。
瞳に宿る闘志は、正義の炎。
探偵社の新入りに相応しい勇気と行動力。
口角が自然と上がる。
後輩が頑張っている時に、先輩が怠けていてどうする？
「ねえ。どうして私が中也に勝てたか、教えてあげようか。」
「は？中原幹部…？」
戸惑いの声には無視を決め込み、そのまま続ける。
「体術には自身があったのだけど、1回目はあっさり投げ飛ばされた。それでこう言われたんだ。�爐覆鵑澄△海猟�度か�瓩辰董�ふふ、今でも思い出せる程のこれ以上ない敗北を味わったよ。因みに2回目は、良い線までは行ったのだけれど、重力によって潰された。」
「……何が、」
ぱあん！
何が言いたい？
その言葉を遮った銃声は、他でもないAが忍ばせていた
古い型のその銃は、グリップは赤黒く汚れているが、トリガーと銃身だけは光る鉛色を維持している。どこが彼女にとって大事な部分なのかはっきりとわかる状態。
樋口はその場にうずくまり、右脚を押さえた。
黒のスーツには目立たなくとも、押さえた手は遠目からでも分かる程、真っ赤だ。
(…痛い、)
「3回目。近距離戦は駄目だと学んだ私は、懐にこっそり銃を仕込んだ。そこからだよ。彼から私に戦いを挑んでくる様になったのは。」
「嗚呼、そうだ。遮っちゃった質問の答えだけど。つまり、私が言いたかったのは、君はどうして私が丸腰だと思ったの？って事だ。」
ぱあん！
放たれた二発目は、短機関銃にめり込んだ。
乾いた音を立てて銃は彼女の手から離れる。
「あはは。丸腰は、どっちかな？」
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作者名：じゅき | 作成日時：2016年6月29日 20時
