王子になるから一年寄越せ<牛沢> ページ14
｢先輩｣
｢あら、佐々木くん｣
情ねーツラ下げてるんだろーなって思うと、先輩の前に顔すら出したくなかった筈なんだけど。
まだ少しだけ冷たい風が先輩の髪の毛を揺らす。俺、ショートカットの方が好きなんだけどな。なんでか、この人に限ってはロングがいい。きっと、似合ってっからだな。
｢どうしたの、そんなに泣きそうな顔しちゃって。………私がいないのは、寂しい？｣
｢ええ、寂しいから泣きそうな顔、しちゃってるんすよ。｣
へらりと笑うと、卒業証書の入った筒を構えて、びしっと俺を指した。
｢佐々木くん｣
｢……うす｣
｢君は、仲のいい人にうっしー、って呼ばれてたね。｣
論点ずらし！？少しずっこけそうになったわ！でも先輩はふっと、優しい笑みを浮かべたままで。
｢牛沢くん。｣
｢………はい｣
｢好きだよ。｣
………は？
突然の告白に息が止まるかのような思いをした。多分死ぬのでは？
｢でもさ、君を縛り付けることは……出来ないよね。｣
先輩。
先輩。
｢A、先輩。｣
｢ん？｣
｢ねえ、先輩。……それ。｣
ぐっと近づいて、距離を詰めて。
｢俺の気持ち、知ってて言ってる？｣
｢………実は。｣
｢あーーーー！！！先輩ッ、俺、あんたのこと、ずっと好きでいる！だから一年だけ待ってろ！｣
無理矢理、投げやりに叫ぶように言う俺に先輩はにっこり笑った。
｢一年待ったら、君はどうしてくれるの？｣
｢あんたを、迎えに行くよ。｣
桜と、一緒にな。
｢待ってる。｣
そう言ったA先輩の顔は今まで見た中で、一番どきりとさせられた。
そして、その言葉があれば十分と言うように手を振って、一年後にね！なんて言うのだ。
｢プレッシャーかけ過ぎィ！｣
まあ、あとこれだけ、伝えなければ。
｢先輩、卒業、おめでとうございます！｣
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