後編 ページ7
「あ、いたいた！」
思わず肩を揺らした。それは声の主が今ずっと思っていた人物であったから。
「もう帰っちゃったと思ったよ」
今は隠れているお日様のように暖かい笑顔で彼女は、のんきそうにそう言った。雨に濡れきらめく髪をみて、俺は正気に返った。
「……っておい、ぬれてんじゃねえか！車で帰るんじゃなかったのかよ！」
家が遠い彼女は、今日は雨だから車で帰るね、と言って俺と別れたはずだったが、今の彼女はカバンで頭をかばって立っている。
それがね、と彼女ははにかみながら答える。そのしぐさにも心臓が跳ねる。
「お母さん、仕事忙しいらしくて、どうしても離れられないんだって」
だから歩いて帰ることにしたのだと、彼女は言う。だったら。自然と体が動く。
「ほら、やるよ」
そう言って傘を差し出す。彼女が不思議そうに首を傾げる。ぬれちゃうよ、と心配げだ。
「大丈夫だって。俺、体強いから」
少なくとも彼女よりは。一応、サッカーで鍛えているのだ。そうやすやすと風邪を引いてたまるか、そう言い放つと、彼女はおずおずと傘を受け取る。そして、
「えいっ」
そんなかわいらしい声とともにいきなり駈け寄られ、頬が熱くなるのを感じる。それに気づいていないらしい彼女は手を少し上げて傘に俺を入れた。いわゆる、相合傘。
「これならぬれないでしょう」
誇らしげに胸を張る彼女に、おい、と言いかけた口を閉じた。彼女が楽しそうにこちらを見上げてくるので、まあいいかと思ったのだ。
「……やっぱり雨はいいかもな」
何か言った？と不思議そうに問いかけてくる彼女に、何でもねえよ、と顔をそらし、ひそかに天に感謝する。あまりの手のひらの返しように、天もびっくりである。
いつもと変わらない、彼女と進む帰り道。違うのは彼女との距離が近いことと、本人たちの知らぬところで、付き合ってるらしいとかいう噂が流れるぐらいだ。
六冊目「もしも魔法が使えたら」前編→←五冊目「雨は嫌いですか？」 前編
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高空 - 夏蜜柑さん» ありがとうございます！少しずつの更新になりますが暖かく見守って頂ければ幸いです。 (2018年3月4日 14時) (
レス) id: afb8e92214 (このIDを非表示/違反報告)
夏蜜柑(プロフ) - はじめまして！好きです！言葉の選び方がとっても綺麗でもう最高です…！更新楽しみにしてます！！ (2018年2月26日 1時) (レス) id: ec14c5022d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：高空 | 作成日時：2018年2月25日 9時
